フィリピン・モルッカ・スンダ諸島・日本列島図

制作年 1700頃
制作者 フェール
出版地 パリ
言語 フランス語
フランス
分類 アジア図

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解説

 フェール(1646-1720)は、地図や図版の出版、販売を得意としたパリの出版社で、父から譲り受けた工房を発展させて成功を収めました。父が1657年にデュヴァル(1619-1683)の小型地図帳を出版しており、地図製作にあたってはデュヴァルとの繋がりを活かすことができたと思われます。
 本図は、フェールが出版した、ロッブ(1643−1721)による『地理学簡易学習法(Methode Pour Apprendre Facilement la Geographie. 1685)』に初めて登場したもので、この本はその後も何度も再版され、地図も改訂が加えられていきました。本図は、地図左上に記されたページ数から、1689年に刊行された第3版以降のものであることがわかります。
 この地図は、その名が示す通り、フィリピンを始めとしたモルッカ、スンダ諸島を描いたものですが、日本地図が左上に設けられた別枠の中で描かれています。フィリピンとともに日本が描かれている理由は定かではありませんが、カソリック的色彩の強い書物に収録されていることから、当時カソリック布教のアジアにおける拠点がフィリピンであったことに関連して、合わせて収録された可能性があります。
 この地図に描かれた日本の輪郭は、先行するどの地図の類型にも属さないことで知られており、独特のものとされていますが、先に触れたデュヴァルの日本図の影響が見て取れるように、先行諸地図をいくつか組み合わせて作成されたものと思われます。蝦夷や琉球は全く描かれていませんが、これは当時のヨーロッパにおいて両地域が日本に属するものとみなされていなかったことによります。初版刊行時に掲載された地図には、地名の多くが記されていませんでしたが、この版では本州部分に大きく記された京都(都、Meaco)や、江戸(Iedo)だけでなく、本州(ISLE NIPHON)、四国(XICOCO)、九州(Isle Ximo)に多くの地名が記されています。ただし、琵琶湖は大きな湾の一部となってしまっており、京都がこの湾に面した臨海都市として現在の神戸付近に描かれています。いくつかの島についても地名が記されており、隠岐(I. Oqui)、佐渡(Sando I.)、平戸(I. Firando)などが確認できます。東北地方は北に向けて大きく直立しています。

(執筆:羽田孝之)