南千島探検始末記

出版年 1819
著者 ゴローニン
出版地 サンクトペテルブルク
言語 ロシア語
ロシア
分類 図書

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解説

本書は、1811年から1813年にかけて箱館にて捕縛の身となった体験を記した『日本俘虜実記』の著者として知られる、ロシア海軍士官ゴローニン(Vasilii Mikhailovich Golovnin, 1776 – 1831)による著作です。ゴローニンは、太平洋北部海域の測量を命じられた戦艦ディアナ号の艦長で、1811年から千島諸島南部の測量を行っていた際、国後島の泊湾で日本の役人に捕縛され、以後1813年に渡るまで2年余にわたる日本での抑留生活を余儀なくされました。彼が捕えられた背景には、1804年に長崎に来航したロシア遣日使節レザノフ(Nikolai Petrovich Rezanov, 1764 – 1807)が、通商交渉失敗後に唐太・択捉での略奪を部下に行わせた事件(1806-1807年のフヴォストフ・ダヴィドフ事件)に起因する日露関係の緊迫した状況がありました。

ゴローニンが日本での抑留体験をもとに記した『日本俘虜実記』は、それまで西洋における現代日本情報が基本的にオランダ東インド会社関係者によるものしかなかった状況にあって、彼らとは全く違う経緯で日本に入国、滞在し、見聞する機会を得た西洋人がもたらした新しい日本情報として大反響を呼びおこしました。本書は『日本俘虜実記』英訳刊行の翌年1819年に刊行されたもので、ゴローニンが捕縛される直前まで従事していた千島列島南部の測量の記録をまとめた作品です。

ゴローニンによる千島列島南部の測量時の経緯及び様子は、『日本俘虜実記』においてもすでに紹介されており、本書もこれと重複する内容の記述が冒頭に見られます。その一方で、本書は『日本俘虜実記』よりも実用的な航海日誌、水路誌として編纂されているようで、時系列に沿った記述は、日々の天候や風向きといった気象情報、潮流、水深、緯度や経度といった航海に関する情報が中心で、またこの時の測量調査を反映して作成した海図も折り込み付図として冒頭に収録されています。測量時に観察した沿岸部の地形や、上陸した際に観察した植生、現地で会った人々の様子や彼らとの交流から知り得た地名情報なども記されています。この時に確認し得た千島列島全26島それぞれについて、その名称を現地の人々の数え方と名称を併記する形で列挙(111ページ〜114ページ)していて、千島列島の全貌詳細が本書で初めて明らかにされました。こうした内容に鑑みると、本書は民俗誌的な側面を有しつつも、基本的には実用的な水路誌として、実測に基づく千島列島周辺海域の最新情報を提供することに主眼が置かれた作品と言え、ある種の冒険読み物としても楽しめる『日本俘虜実記』とは、趣がかなり異なる作品となっています。ただし、本書後半(124ページ〜142ページ)は、彼が捕縛されるに至った一連の経緯を記していて同書に重なるような記述も見られます。

本書は『日本俘虜実記』のように各国語への翻訳がなされるようなことはありませんでしたが、千島列島近海の地理情報は当時の西洋において未解明となっている部分が多かったため、本書の実用性は非常に高かったものと思われます。

(執筆:羽田孝之)

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