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日本論
解説
著者のハーレン(Onno Zwier van Haren, 1713-1779)は、オランダ、フリースランドの政治家で、オラニエ公ウィレム4世(Willem IV van Oranje-Nassau)に仕えました。1760年代には政治活動から引退し、著作活動に勤しんで多くの作品を残しており、オランダ領東インドを舞台にした戯曲や、出島商館長を三度務めた東インド会社総督カンパイス(Johannes Camphuys, 1634-1695)の伝記なども刊行しています。
本書は、ハーレンが晩年の1775年に刊行したもので、日本におけるオランダの活動を正当化する意図をもって書かれたものです。当時ヨーロッパにおいては、日本との唯一のヨーロッパ貿易国であるオランダに対して非難する声が上がっていました。島原の乱でオランダ商館が軍艦を派遣したことについてはヨーロッパで広く知られており、当時、オランダは自らがキリスト教信仰を放棄するだけでなく、積極的にキリスト教弾圧に関与している、という批判が根強くありました。本書は、こうした批判に対して、オランダの立場を擁護する内容で、主にQ&Aの問答形式によって書かれています。
7つの質問は、「オランダは日本におけるキリスト教迫害を引き起こしているのか?」、「日本におけるオランダ商館は1638年のキリスト教弾圧に手を貸したのか?」、「日本におけるオランダ人は、日本の役人からキリスト教信仰に問われた際に何と答えているのか?」、「日本における絵踏とは何か、また誰がそれに服する義務を負うのか?」、「ヨーロッパ人で絵踏に応じた者はいるのか?」、「島原の事件によって日本におけるキリスト教は根絶されたのか?」、「日本にはクリスチャンは全く存在しないのか?」というもので、ハーレンは、オランダ側の資料はもちろんのこと、シャルルボワの「日本史」など多くのカトリック圏での日本研究先行文献をも駆使して、これらの問答を答える形で、オランダには非難されるいわれがないことを主張しています。また、第7章では、15世紀半ばから当時に至るまでのヨーロッパ人と日本人との交流史を扱っています。第8章で扱われる最後の問いに対しては、1668(寛文8)年に日本に宣教を試みて潜入し捕らえられたのち新井白石の尋問を受けたシドッチ(Giovanni Battista Sidotti, 1668-1714)を例証に出しています。
ハーレン自身は来日経験がありませんでしたが、本書において、彼は多くの文献を駆使して、学問的な正当性でもって当時のオランダの立場を擁護しようとしており、やや主張に苦しい点も見られますが、少なくとも憶測による批判に対しては効果的な反論となり得たと思われます。なお、本書は1778年にはフランス語にも訳されています。
(執筆:羽田孝之)
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