ライブラリー図書
日本・インド・ペルー書簡集
解説
本書は、八つ折り版の縦18センチ、横13センチほどの大きさの本ですが、1000ページを超える非常に大部の書籍です。タイトルには、インド、ペルーも含まれていますが、実にその600ページ以上(第一部冒頭から636ページまで)が日本の記述にあてられています。
イエズス会はヨーロッパ外の多くの地域に宣教師を派遣していますが、その活動を、年に一度以上書簡で報告することが決められていました。各地から集められた書簡はローマで精査された上で、写本が作成されただけでなく、刊本の形で出版されることも多くありました。さらに、これらを一定期間分まとめて書簡集の形で出版することもあり、本書はそうしたものの一つで、日本に関するものだけでも1577年から1601年の書簡が、実に55本も収録されています。
本書を編集したヘイ(John, Hay, 1546-1607)は、スコットランド出身のイエズス会士で、カルヴァン派への反駁書などの著作がある神学者です。ヘイは、当時最新の年代をカバーするべく、既刊の日本書簡を集め、自身でラテン語に訳したり、そのまま転載して本書を編纂しました。また、書簡だけでなく、天正遣欧使節に関する資料も本書に収録しており、有名な「教皇グレゴリオ13世への日本使節(天正遣欧使節)謁見史料集」も含まれています。書簡の著者は、信長からの信頼が厚く、人々から「宇留岸伴天連(うるがんばてれん)」と呼ばれて親しまれていた宣教師オルガンティノ(Organtino Gnecchi‐Soldo, 1533-1609)や、東インド巡察師として天正遣欧使節も企画したヴァリニャーノ(Alessandro Valignano, 1539-1606)、「日本史」という原稿を残したことでも知られるフロイス(luís Fróis, 1532-1597)といった錚々たる宣教師たちで、これらの書簡で報告される出来事は、布教史研究としてはもちろんのこと、16世紀後半の戦乱期にあった日本史研究においても、日本側資料を補うことができる大変貴重な情報を含んでいます。また、本書は本文の後(969ページ)に、詳細な人名、地名、事項別の索引もつけられており、必要な書簡をここから探し出すこともできるようになっています。
本書が出版されたアントワープはスペインの支配下にあり、イエズス会関連の刊行が盛んでした。本書の出版社であるヌイツ(Martini Nutij)はアントワープを代表する出版社でした。ヌイツは、本書の姉妹編として、本書収録以前の年代の書簡集の名著である、マッフェイ(Giovann Pietro Maffei)『インド史』の自社版を本書と同時に刊行しており、両書を合わせることで、ザビエル来日以降の約半世紀分の日本宣教報告を読むことができます。
(執筆:羽田孝之)
もっと詳しく見る