ライブラリー図書
新旧東インド誌
解説
本書は、オランダ東インド会社が収集していた機密文書を含む資料などを駆使して著された、「東インド」に関するあらゆる事項をまとめた書物です。大型フォリオ版で全5巻からなり、収録される図版や地図は260枚を越えるという壮大な書物として、1724年から1726年にかけて刊行されました。空前絶後の書物と言われており、現在ではすでに失われた資料も用いて書かれているため、歴史的資料としての価値が高いとされています。タイトルページに示された膨大な地名が示すように、バタフィア、モルッカ、ペルシャ、マラッカ、セイロン、インド、喜望峰、中国、台湾、そして日本等と、オランダ東インド会社が関連するあらゆる地域の、地理情報、気候、風土、歴史、政治、文化、産物、交易といったあらゆる情報が、豊富な図版とともに紹介しています。
著者のファレンティン(François Valentijn, 1666 – 1727)は、オランダ改革派の宣教師で、1686年に現在のインドネシアのアンボンやジャワに渡り、のべ15年以上を現地で過ごしました。彼の主務は布教活動でしたが、その傍ら東インド会社の関連文書や現地の要人から得た資料を収集し、帰国してからそれらをまとめ上げて本書を刊行しました。ファレンティンの活動時期は、オランダ東インド会社がその絶頂期を迎え、18世紀以降徐々に衰退に向かう時期でした。ファレンティンの著作は、それまで厳密に機密情報として会社内に秘匿されていた文書や海図が、徐々に流布し始め、オランダの貿易優位性が衰えていくことになっていく潮流を象徴したものでもあります。
本書第一巻の非常に印象的な口絵は、その左ページのテキストに記された解釈文が説明するように、中央の女王(台座の下の獅子とともにオランダを表す)のもとにあらゆる産物、情報、人が集まってくるさまを描いており、東インド会社の躍進によりヨーロッパの中心国となったオランダを称えています。第1巻は、二部構成をとっており、最初の部では、オランダによる「東インド」への進展の歴史と概要が扱われ、後半の第二部では、オランダ東インド会社にとって最も有用であったモルッカをはじめとして、アンボンなどの最重要地域についての記述がなされています。
この巻における日本に関する記事はほとんどありませんが、第一部の106ページで、1542年にヨーロッパ人が日本を「発見した」との記述が確認できます。日本については、第5巻第二部で、独立した章として集中的に取り扱われており、そこでは特徴的な地図や銅版画も含めて、多くの情報が含まれており、当時ヨーロッパにおいて唯一の交流国であったオランダの最新情報が惜しみなく披露されています。
(執筆:羽田孝之)
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