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フランシスコ・ザビエル:その生涯と所業
解説
著者のバルトリ(Daniello Bartoli, 1608 – 1685)は、17世紀を代表するイエズス会の歴史家で、本書の他にイエズス会の歴史を活動地域別に分けて刊行した大部の歴史書『イエズス会史(Istoria della Compagnia di Gesú. 1650-1673)』を著しました。彼自身は、日本をはじめとするインド布教を希望していたと言われますが、その類いまれなる才能を著述作品の完成に向けるべきと判断したイエズス会当局の命を受け、1646年から没年の1685年までローマで執筆活動に専念する生涯を送りました。
本書は、バルトリによるザビエル(Francisco de Xavier, 1506-1552)の伝記で、上述の『イエズス会史』「アジア部」(1653年刊行)に収録されていたザビエル伝を、イタリア語からラテン語に翻訳し、独立の書物として刊行したものです。
本書において、バルトリは本文に入る前に、ポルトガルをはじめとしたカソリック国による航海によってアフリカ、アジアが「発見」されてきた経緯を簡単に説明しています。続く本文は、『イエズス会史』「アジア部」と同じく、全四巻で構成されており、1549年から1552年に至る日本布教については、主に第二巻の終わりから第三巻で集中的に取り扱われています。
第三巻では、最初に日本についての概略が述べられており、とりわけイエズス会にとって関心の高かった仏教や神道について論じています。ザビエルが薩摩で行なった仏僧との宗教論争や、日本でザビエルが起こしたとされる奇蹟、山口での布教活動、京都に上っての布教請願と山口への帰還、そこから豊後への布教といったザビエルの活動が詳細に扱われていますが、イエズス会史の著者らしく、各地での宗教論争とその内容については特に詳細に論じています。
バルトリは、本書の執筆にあたって、ローマのイエズス会文書館に所蔵されていた資料を駆使しており、本文中ではその出典を明記していませんが、特にルセナ(João de Lucena, 1549?-1600)による『ザビエル伝』(原著はポルトガル語、Historia da vida do Padre Francisco de Xavier…1600. 当館は1788年の第二版、 イタリア語版は、Vita del B. P. Francesco Xavier della Compagnia di Giesù. 1613を所蔵)を参照していたことが、後年の研究で明らかになっています。
本書をはじめとしたバルトリの著作は19世紀まで読み継がれ、聖人による奇蹟の強調など客観性に欠けるという批判もありましたが、17世紀の傑出した歴史作品として今も高い評価を受けています。
(執筆:羽田孝之)
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