ライブラリー図書
インド・日本書簡集
解説
本書は、ザビエル(Francisco de Xavier, 1506-1552)を中心とした、イエズス会による初期のインド地域の布教に関する書簡を集め、ラテン語に翻訳して刊行したものです。
イエズス会は世界中に宣教師を派遣して伝道活動を強化すると共に、現地の宣教師から定期的に報告書を書簡で送ることを命じており、それらを刊行することで、後続人材の士気を鼓舞し、またヨーロッパにおけるカソリック復興の機運を高めることを意図していました。日本布教に関する最も古い報告を含む書物は、早くも1552年に刊行されており、インド布教報告や日本報告という形で以降も刊行が続いています。特に、本書刊行の前年に出された『日本書簡集』は初期の日本布教活動と当時の日本社会を知ることができる大変重要な書物です。
本書は、1570年にフランスのルーアンで刊行されたもので、インド地域の布教に関する1544年から1564年に発信された書簡を23本収録しています。冒頭に掲載されているのは、インド布教の中心人物であったザビエルの書簡で、現在のインド南部コーチから1544年にローマのイエズス会創立者ロヨラ(Ignacio López de Loyola, 1491-1556)に宛てて出されたものです。この書簡は、ザビエル来日前に出されたものですので、当然日本についての記述は含んでいませんが、ザビエルがローマに向けて自身の布教方針を長文で明確に発信した書簡として有名なもので、当時ヨーロッパで聖俗問わず大きな反響を呼んだと言われています。
日本に関する情報は、ザビエルから厚く信頼されていたガスパル神父(Gaspar Barzaeus, 1515-1553)からの書簡や、若き日の来日前のフロイス(Luís Fróis, 1532-1597)からの書簡を中心に確認でき、ザビエルら初期の来日宣教師の活動の様子を、イエズス会のインド布教の中心地であったゴアから発信しています。ガスパル神父は、ゴアに設けられていたイエズス会の教育機関である聖パウロ学院の学院長をザビエルから任命されていたこともあり、多くの布教活動に関する情報に接しうる地位にあったと思われます。
本書には、日本以外にも中国や、現在の東南アジア諸国、エチオピアなどの布教に関する報告も含まれており、イエズス会のインド布教全体の文脈の中で、ザビエルの布教活動と日本についての貴重な情報を得ることができます。
(執筆:羽田孝之)
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