探検航海記 フランス語版

出版年 1645
著者 ピント
出版地 パリ
言語 フランス語
フランス
分類 旅行記

日文研データベースでこの図書の本文を見る

日本関係欧文貴重書DBへのリンク

解説

本書は『東洋遍歴記』の邦訳タイトルで知られる、ポルトガルの冒険商人ピント(Fernão Mendes Pinto, 1509? – 1583)の作品です。ピントは1537年から1558年にかけて日本を含む東洋各地を文字通り遍歴し、その間に見聞したさまざまな出来事をもとにして帰国後に本書を執筆しました。ときに「嘘つきピント」とも言われていることから分かるように、彼の記述は虚飾混ぜになっていることや、過度な誇張が多いことでも知られていますが、実際に東洋各地を見聞した人物による16世紀の証言として重要な作品とみなされており、またある種の優れた物語、文学作品としても再評価がなされています。

ピントは冒険商人として東インドに渡って、マラッカやスマトラ、モルッカ、シャム、中国、そして日本にも渡航して大きな富を築き上げることに成功しました。商業活動に勤しむだけでなく、訪れた各地の風俗や気候、宗教、文化、歴史、地理、政治状況といったあらゆることにもピントは関心を持ち、本書では彼の目を通した当時のアジア各地の現地状況が活き活きと語られています。

ピントが帰国後に書き上げた原稿は生前刊行されることはなく、没後30年以上経ってから1614年に初めて書物として刊行されました。刊行されてから瞬く間に好評を博し、スペイン語訳版英語訳版オランダ語訳版ドイツ語訳版という各国語翻訳版が次々と現れ、1678年には原著ポルトガル語第2版も刊行されています。本書は各種ある翻訳版のうち、1645年に刊行されたフランス語訳版にあたるものです。

本書では日本についての記述も非常に多く見られ、第132章(497ページ〜)から第137章にかけては、種子島(Tanixumaa)に上陸し、直時(Nautaquin)こと種子島時尭と謁見したことや、鉄砲を伝えたことなどが述べられています。これは、日本側史料では1543年(天文12年)とされている鉄砲伝来の記述とも符合する大変興味深い記事ですが、自らが日本に最初に上陸したヨーロッパ人の一人であるとピントが主張していることは誤り(誇張)であろうとみなされています。ただし、彼が実際に来日したこと自体は間違いないとされており、宣教師以外のヨーロッパ人が記した貴重な日本見聞記としても、本書は評価されています。また、199章(894ページ〜)からでもピントの再来日時の記録が記されています。

ピントは冒険商人として大きな富を築くことに成功した後に、ザビエルのアジア宣教のことを知って深く感銘を受け、驚くべきことに財産の大部分をイエズス会に寄進した上で自らもイエズス会士となり、宣教師としても来日を果たしています。ピントのこの活動は長く続かず、のちにイエズス会を脱会したものの、ザビエルに対する尊敬の念は生涯変わらなかったようで、本書102章(908ページ〜)以降は、ピントによるザビエル伝となっています。

(執筆:羽田孝之)

もっと詳しく見る