ライブラリー図書
日本最新画報
解説
本書は、ティツィング(Isaac Titsingh, 1745 – 1812)の著作『日本における式典:婚礼と葬儀、ならびに歴代将軍図譜』を英訳(『日本風俗図誌』)して1822年に刊行したショべール(Frederic Shoberl, 1775-1885)が、その前年1821年に刊行したもので、様々な書物を情報源にして、当時の日本について知り得る最新の知見をコンパクトな文庫本サイズの書物で提供しています。
ショベールは、ロンドン在住の編集者、企画者で、美しい多数の彩色図版で世界各地の人々を紹介した世界のミニチュアシリーズ(The World in Miniature)の刊行をはじめ、美しい彩色図版を含む書物の刊行を得意としていました。本書は白黒の図版が収録されていますが、この世界のミニチュアシリーズのドイツ語版(実際にはこちらの方が刊行が先)として出されたもので、シリーズ全体の構成がタイトルページ前に紹介されています。
本文は、モンタヌスやケンペルといった先行する日本を扱った書物の図版が効果的に選択されており、日本の文化や社会についての理解を視覚的にも深めるよう工夫されています。また収録されている図版は日本由来のものとされているものもあり、これらはティツィングの遺したコレクションの一部を用いたものと思われます。
日本の地理情報の概要を説明した後、ヨーロッパ人の日本との接触の歴史を簡単に述べ、当時最新の日本情報をもたらしたロシア経由の情報を整理して紹介します。これらの記述は、ゴローニン(Vasilii Mikhailovich Golovnin, 1776-1831)の「日本俘虜実記」やクルーゼンシュテルン(Adam Johann von Krusenstern, 1770-1846)の「世界周航記」、ラングスドルフ(Georg Heinrich von Langsdorf, 1773-1852)の「世界周航記」などが元になっています。
また、トゥンベリー(Carl Peter Thunberg, 1743-1828)の「ヨーロッパ・アフリカ・アジア紀行(1770~1779年)全4巻」も参照して、オランダ商館長の江戸参府や出島の様子も扱われています。日本の歴史についても古代の起源から、天皇家と将軍家の争いの歴史と統治機構における住み分けなど詳細に論じています。統治機構や政治制度と合わせて、日本女性の生活や宗教、道徳観や学問、芸術といった多方面にわたって文化面も述べられており、当時ヨーロッパで入手し得た情報を駆使して、立体的に日本を理解できる内容になっています。
なお、本書は簡単な厚紙装丁による書物ですが、そこに採用された図版が、ティツィングのフランス語版3巻本とよく似ていることから、フランス語版の出版社ヌヴーとの関係が伺えます。
(執筆:羽田孝之)
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