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アジア史 新版
解説
この『アジア史』はポルトガル王室による古典的名著の再版事業の一環として王立印刷局から刊行され、時の女王マリア1世(在位:1777-1816)に献呈されました。本書はもともとマヌエル1世からセバスティアン1世期の王室歴史編纂官ジョアン・デ・バロス(1496-1570)が『十巻の書(Decadas)』のうちの4巻を執筆し、バロスを崇敬していたゴア駐在の文書管理官ディオゴ・デ・コウト(1542-1616)がさらに8巻を書き上げたものの合集版です。
ポルトガル王室およびポルトガル人のアフリカから極東に至る「発見」と「征服」の歴史が本書の基本的内容です。特に有名なところでは、アフォンソ・デ・アルブケルケ(1453-1515)によるオルムス、ゴア、マラッカの占領や、現地諸勢力との衝突の経緯などが記されています。日本関連記述に目を向けますと、バロスの記録では日本に関する独立した章はなく、ポルトガル人が征服事業の過程で入手していた極東の地理情報のなかに琉球人や日本人の存在が指摘されているにすぎません。一方で、コウトによる『十巻の書』第5巻・第8部・第12章では、1542年のポルトガル人による日本「発見」経緯と日本の地誌・政体・宗教を専門的に扱っています。また第12巻には2つの日本関係記事が載せられています。まず第1部・第19章には、巡察師アレッサンドロ・ヴァリニャーノ(1539-1606)と中国司教ルイス・デ・セルケイラ(1552-1614)の来日経緯と豊臣秀吉の最晩年の詳細な記述があり、秀吉死後に起こるであろうキリスト教布教の進展への期待でもって締めくくられています。また最終部の第5部・第2章は、オランダ船リーフデ号(三浦按針として知られるイギリス人ウィリアム・アダムズが乗船していたことで知られています)の喜望峰、マゼラン海峡などを経て豊後へと至る航海の詳細に紙面が割かれています。
〔参考文献〕
ジョアン・デ・バロス、生田滋・池上岑夫 訳『アジア史(1)』(大航海時代叢書 第II期)岩波書店、1980年。
ボイス・ペンローズ、荒尾克己 訳『大航海時代 旅と発見の二世紀』筑摩書房、1985年。
(執筆:阿久根晋)
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