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歴史大辞典 全3巻
解説
本書の著者モレッリ(Louis Moréri, 1643 – 1680、モレリとも)は、フランスの神父で本書の編纂によって名を残しました。この辞典は18世紀を通じて広く利用された著作で、当時ヨーロッパで知られていたあらゆる世界の歴史、地理に関する事項、また著作とその著者、偉人の伝記などをアルファベット順に項目を配列して収録しています。基本的にカトリックの立場から編纂されていることから、項目の選択や記事内容については後年の批判を呼ぶこともありましたが、1674年に初版がリヨンで刊行されると瞬く間に好評を博し、モレッリ没後も増補改訂が重ねられて、最終版となった1759年版は全10巻にもなる大部の百科辞典となりました。当センターで所蔵しているのは1694年に刊行された第7版とされている全4巻(2冊)と1716年に刊行された補巻(1冊)で構成された3冊本です。
本書には日本に関する地名や人名も多数収録されていて、当時のヨーロッパにおいて日本の情報がどの程度、またどのように伝えられていたのかを知ることができます。例えば「A」の項目だけでも、「ACEQUI」(明智、第1巻27ページ)、「AMACUSA」(天草、第1巻133ページ)、「AMIDA」(阿弥陀、第1巻145、146ページ)、「ARIMA」(有馬、第1巻253ページ)、「AVA」(阿波、第1巻300ページ)といった項目を見つけることができます。これらの地名や人名はイエズス会を中心とした宣教師の報告集において頻繁に登場することから、モレッリがこうした書物から日本の地名や人名を抜き出したことがうかがえます。
本書では、他にも「BONZES」(坊主、第1巻458ページ)、「CAMIS」(神、第2巻31ページ)、「XACCA」(釈迦、第4巻570ページ)といった日本の宗教に関する語や、「DAIRO」(内裏、第2巻318ページ)、「NOBUNANGA」(信長、第4巻41ページ)、「TAICKO」(太閤、第4巻435ページ)、「FIDERI」(秀頼、第2巻518ページ)といったキリシタンと縁の深い為政者たちの名前もみることができます。いわゆる日本二十六聖人殉教事件と呼ばれている1597年の秀吉によるキリシタン弾圧事件は、「PERSECUTIONS DE L’EGLISE. LA XXVI」(26人の信徒迫害、第4巻137ページ)として、独立した項目を設けてまで解説されています。また、こうした個別項目とは別に「JAPON ou JAPAN」(日本、第3巻196、197ページ)の項目があり、2ページにも渡って日本が紹介されています。
モレッリの『歴史大事典』は18世紀を通じて広く読まれる一方で、その記述の信憑性に対する批判も多く、特に反カトリックの立場を鮮明にしていたベイルの『歴史批評辞典』などはそうした批判の代表的なものと言えます。両者の立場はかなり異なっていますが、ベイルの『歴史批評辞典』も本書と同じく18世紀を通じて非常によく読まれ、また日本に関する項目を収録していることから、こうしたベストセラーとなった辞典に収録された項目記事を通じても当時のヨーロッパに日本情報が広まっていたことがうかがえます。
(執筆:羽田孝之)
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