枢機卿会広報

出版年 1585
著者 ゴンザレス
出版地 ローマ
言語 イタリア語
イタリア
分類 使節記

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解説

 本書は、1582(天正10)年に派遣された天正遣欧使節団に関する、同時代にローマで刊行された書物で、最も基本的な資料の一つです。天正遣欧使節は、イエズス会東インド管区巡察使のヴァリニャーノ(Alessandro Valignano, 1539-1605)の発案により、大友宗麟、大村純忠、有馬晴信の名代として、4人の少年(伊東マンショ、千々石ミゲル、中浦ジュリアン、原マルティノ)がローマ教皇はじめヨーロッパカトリック諸国に派遣されたもので、当時のカトリック諸国で大変な話題となりました。遥か東方からヨーロッパにやってきた使節団は、対抗宗教改革運動の最中にあったカトリック諸国において、絶大なインパクトを与え、当時おびただしい数の書物が刊行されています。本書は、その中でも最も基本的な資料として重要性が認められている文献の一つです。
本書はわずか20ページにも満たない小冊子ですが、使節の内実を知る上で欠かせない重要な資料が収録されています。まず、最初の3ページに掲載されているのは、大友宗麟が教皇に宛てた書簡で、末尾の署名欄には、豊後(Bungi)の王フランシスコ(大友宗麟の洗礼名)より、と記されているのが確認できます。続いて5ページには有馬晴信の教皇宛書簡が、そして6ページには大村純忠の教皇宛書簡が掲載されています。いずれの書状の内容も、偶像崇拝の誤った教えからキリスト教に導かれることへの感謝と、教皇の慈悲に対する感謝と自身の信仰を証すために使節を派遣する旨が記されており、これらの書簡は、使節が教皇に謁見する場で実際に朗読されたと言われています。
続いて、7ページから掲載されているのは、宣教師ゴンザレス(Gaspar Gondisalus)による演説(オラショ、Oratio)です。当時の式典や公式な謁見の場では、こうした演説が使節によりなされることが慣例となっており、この時のゴンザレスの演説は大変優れたものであったと言われており、その場の多くの人々の涙を誘ったとされています。
最後(18ページ)に掲載されているのは、式典で教皇名代を務めたボッカパズーリ(Antonio Buccapaduli)からの使節に対する返礼となる答辞文です。教皇が使節の来訪をこころより喜んでいること、また日本におけるキリスト教の保護を約束し、今後の発展を願うとともに協力を惜しまないことが述べられています。
本書は刊行されるや否や大変な人気を博し、多くの再版や翻訳版が出版されています。なお、同使節に関する他の基本文献として重要なものとしては、使節のヨーロッパにおける行程全体を記録したグアルティエリ(Guido Gualtieri, 1560-1636)の書いた『天正遣欧使節記』や、使節が教皇に謁見する様子を描いた図版を収録している『教皇グレゴリオ13世偉業伝』があり、本書と併せて読むことで、天正遣欧使節のヨーロッパにおける様子を知ることができます。

(執筆:羽田孝之)

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