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日本新種植物紹介
解説
本書の著者、トゥンベリ(ツンベルクとも、Carl Peter Thunberg, 1743-1828)は、スウェーデンの植物学者、博物学者、医者です。オランダ東インド会社船医として、1770年から日本を含む世界各地を歴訪し、アフリカ希望峰や日本の植物採取と調査を行っています。
この調査航海の記録は、『1770年から1779年にわたる、ヨーロッパ、アフリカ、アジア紀行』として刊行されて、当時広く読まれました。この旅においてトゥンベリが日本に滞在したのは約1年余りという短期間でしたが、江戸参府道中の路傍での採取や植木店での購入、蘭学者たちとの交流を通じての提供、家畜飼料に含まれる植物からの抜き取りといったあらゆる手段を駆使して、驚異的な数の日本の植物を採取しました。トゥンベリは帰国後にリンネ親子の後継者としてウプサラ大学植物学教授に就任し、自身の植物研究の成果をスウェーデン王立アカデミー論集に随時発表していきました。1781年にはウプサラ大学特任教授に就任し、日本の植物研究の集大成として1784年に『日本植物誌』を刊行しています。
本書は、このように当時のヨーロッパにおける植物研究の第一人者となっていたトゥンベリが、日本において採取して研究の対象とした植物のうち、新種として認められるものを一覧の形で列挙して紹介した作品で、1824年4月14日に公表された記録がもとになっています。植物学研究の共通言語であるラテン語で記された短い序文では、戦争(一連のナポレオン戦争のことを指すと思われる)によって一時荒廃した諸学問がこうした新発見によって新しい光を得ることになるのは誠に喜ばしく、創造主への讃美、人類の幸福へ繋がるという旨のことが書かれていて、トゥンベリによる偉大な成果が讃えられています。
本書の本文はわずか7ページほどの大変短いものですが、その紙面を埋め尽くす形でトゥンベリが日本で発見して新種として認定された植物名がラテン語学名で掲載されています。生物の学名(種名)を属名と種小名の二つを用いて表す二名法は、トゥンベリの師であった植物分類学の大家リンネ(Carl von Linné, 1707 – 1778)によって初めて体系化され、彼の直弟子として薫陶を受けていたトゥンベリは、当時最新の二名法を用いて日本の植物を秩序立てて分類することで、新種の発見と命名をいち早く行うことができました。本書に見られるトゥンベリが命名した学名は現在でも用いられているものが少なくなく、彼の名を意味する「Thunb.」をその学名に持つ植物が数多く残っています。たとえば、本書に折り込み図として掲載されている「ヒキノカサ」の現在の学名は、本書に記されている「Ranunculus ternatus」にトゥンベリの名を足す形で、現代の植物学文献において、「Ranunculus ternatus Thunb.」とされています。
なお、トゥンベリの持ち帰った800点以上の植物標本は、現在もスウェーデンのウプサラ大学の進化博物館に残されており、また『日本植物誌』に用いられたスケッチもロシア科学アカデミーコマロフ植物学研究所に保存されています。
(執筆:羽田孝之)
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