ライブラリー図書
歴代日本商館長年代記(雑誌「インド史料」第2巻所収)
解説
本書は、1849年から1851年頃にかけてバタヴィアで刊行されていた雑誌『インド史料 (Indisch Archief)』の第2巻に収録されていた論文で、末尾の執筆年には1849年とありますが、実際に刊行されたのは1850年です。この雑誌は、オランダの東インド政策に関する学術研究を発表する媒体として、当時フローニンゲンで刊行されていた『オランダ領東インド雑誌(Tijdschrift voor Nederlandsch Indie)』に該当する新しい雑誌を、当該地域であるバタヴィアで刊行することを目的に創刊されています。この雑誌には、日本を扱った記事も散見され、例えば、第1巻(1849年刊)では、この論文と同じ著者による、長崎の稲佐山に古くからある外国人墓地への散策記(Inassa. Begraafplaats der Europeanen en Chinezen bij Nagasakkie, te Japan)が掲載されていますし、第3巻(1850年刊)では、ハーゲマン(Johannes Hageman, 1817-1871)による、黎明期の日蘭交流史(Iets over de eerste betrekkingen der Hollanders met Japan)も掲載されています。雑誌は、歴史、土地と人々、統計、農業、言語と文学、横断領域、の各分野項目が設定されており、いずれの論文もこの分野項目に分類されて掲載されています。
ヒリミウスのこの論文は、横断領域に分類されて掲載されていますが、歴代の平戸・長崎オランダ商館長名を辿りながら、それぞれの時代の特筆すべき事項をまとめた内容です。初代商館長スペックス(Jacques Specs, 1589-1652)に始まり、当時在任中であったレフィスゾーン(Joseph Henry Levyssohn, 1800?-1883)に至るまでを記録しています。多くの商館長については、1行から数行程度で紹介されていますが、初期の日蘭貿易関係樹立に尽力したカロン(François Caron, 1600-1673)や、膨大な日本コレクションを蒐集していたティツィング(Isaak Titsingh, 1745-1812)、オランダがフランスに占領された苦難の時期を耐え、フェートン号事件にも対応したドゥーフ(1777-1835)など、歴史において重要な役目を果たした商館長については、より詳しく論じています。当時終焉を迎えつつあった出島商館ですが、その時期のバタヴィアにおける日蘭関係の歴史観が垣間見える大変興味深い資料です。
なお、この論文は、後にレフィスゾーンが1852年に刊行した『日本雑纂(Bladen over Japan.)』第1章にも再録されています。
(執筆:羽田孝之)
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