東インド紀行

出版年 1676
著者 スハウテン
出版地 アムステルダム
言語 オランダ語
オランダ
分類 旅行記

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解説

著者スハウテン(Wouter Schouten, 1683-1704)は、オランダの外科医で、1658年から東インド会社の上席外科医として勤務、バタヴィア始め東インド各地を旅して1665年に帰国しています。本書は、スハウテンの東インド会社勤務時代に認めていた日記を元に1676年にアムステルダムで刊行されたもので、刊行直後から瞬く間に版を重ねるとともに各国語に翻訳され、当時のヨーロッパ中でベストセラーとなりました。出版者は、「ヨーロッパで最初の日本誌」として著名なモンタヌス(Arnoldus Montanus, 1625-1683)の『東インド会社遣日使節紀行』の出版者と同じヤーコブ・メウルスで、モンタヌスの著作同様、本書にも多数の銅版画が収録されています。

本文は全3巻構成をとっており、刊行当初から1冊本としてまとめられていますが、巻ごとにページ付が行われています。スハウテンの実際の体験の時系列に沿って叙述が進められており、喜望峰を経由して、ジャワ、モルッカ諸島、台湾をめぐり、インドやアラビアを周遊して帰国するまでが描かれています。スハウテンは臨場感溢れる筆致により「嵐を描く専門家」とも称されており、旅行記文学の名著としても知られる本書では、スハウテンが遭遇した様々な危機とそれらを巧みに切り抜ける様子が大変スリリングに描かれています。

スハウテン自身は来日することを望みながら、実際に来日することはできませんでしたが、第3巻第3部(第3巻の16ページ)において、日本について記しています。そこでは、スハウテンが来日を希望していたことや、大変な人気のために断念せざるを得なかったことの記述に始まり、日本の地理的な概況、統治機構と階級、道徳、衣装、家屋、婚姻制度、食事、教育、法律、宗教といった様々な日本についての情報を伝えています。多くの記述は、先行する著作を参考にしたものですが、当時のオランダ人が知り得た日本についての情報量と質を反映している点で大変重要です。スハウテンの日本に対する評価は概ね好意的で、高い規範意識や清潔感を評価しているほか、切腹についても勇気ある行動として高く評価するスハウテン独自の評価も見られます。反面、宗教については偶像崇拝を厳しく批判しており、また男女不平等や福祉制度が皆無である点についても批判しています。日本に関するスハウテンの記述の中でも、長崎での貿易の様子について触れた箇所は、先行する著作に見られない独自の内容で、スハウテンが来日経験のあるオランダ人から直接聞いた内容を反映しているものと思われます。

なお、本書は2003年に現代オランダ語訳版が新たに出版されており、描かれている内容の歴史的重要性とともに、文学作品としての重要性が再評価されています。

(執筆:羽田孝之)

参考文献:クレインス・フレデリック『十七世紀のオランダ人が見た日本』(臨川書店、2010年)

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