ライブラリー図書
日本における式典:婚礼と葬儀、ならびに歴代将軍図譜
解説
本書は、パリの出版社ヌヴーが既に刊行していたティツィング(Isaac Titsingh, 1745 – 1812)の著作「日本における式典:婚礼と葬儀」と「歴代将軍図譜」とをまとめて3巻本として1822年に刊行したものです。ヌヴーは、当時中国やオスマントルコ、ロシアといった世界各地の記録を文庫本サイズにして多数刊行しており、本書もその企画に連ねるために、ティツィングの既刊を再編して出し直したものと思われます。
本文は、既刊のそれぞれの書籍とほぼ同じ内容を踏襲していますが、「日本における式典:婚礼と葬儀」の図版巻に収録されていた美しい彩色図版を、各巻の口絵と、テキスト中に織り込んでいます。テキストは簡単な厚紙装丁ですが、そこに描かれている図柄は、ケンペルやモンタヌスの図版を範にとったものと思われ、同じ文庫シリーズで同年刊行されたロシア人リコルドによるゴロウニン救出記にも同じものが採用されています。
なお、この文庫シリーズに収められたティツィングによる書籍は、本書のように図版に彩色を施したものと、彩色を施していないものとが別個に存在しており、収録される図版にも相違が見られます。これは、ティツィングが日本で収集しヨーロッパに持ち帰った膨大なコレクションと遺稿の整理がティツィングの死後、混乱した状況にあったことを示唆しています。
ティツィングは生前ほとんど作品を発表することができず、彼の貴重な遺稿とコレクションの多くは、様々な人の手に渡っていく過程で散逸していきました。出版社ヌヴーが当時入手したのは、その極一部であり、それらを整理、編集した上で、ティツィングの作品を刊行しましたが、東洋学者レミュザ(Jean Pierre Abel Rémusat, 1788-1832)などの協力は得ていたものの、内容に対する理解はティツィング自身の水準には及んでおらず、出版に際して挿絵の挿入箇所や選択に混乱が生じたことが伺えます。
遺稿とコレクションが散逸していった不幸により、ティツィングの日本研究は、その規模、収集範囲、学術的検証の高度差の点において、後年のシーボルトをも凌ぐものであったにもかかわらず、名声を得ることはあまりありませんでした。
(執筆:羽田孝之)
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