ライブラリー図書
日本風俗図誌(「日本における式典:婚礼と葬儀、ならびに歴代将軍図譜」英訳版)
解説
本書は、パリの出版社ヌヴーが既に刊行していたティツィング(Isaac Titsingh, 1745 – 1812)の著作「日本における式典:婚礼と葬儀」と「歴代将軍図譜」を英訳し、1冊の大判の書物に編纂して、1822年に刊行したものです。
本文は、原典であるフランス語版とほぼ同じ内容を踏襲していますが、フランス語版にも収録されていた美しい彩色図版を一層引き立てる高い技術で再現している点に特徴があります。英訳者のショべール(Frederic Shoberl, 1775-1885)は、ロンドン在住の編集者、企画者で、多数の彩色図版で世界各地の人々の姿を紹介した世界のミニチュアシリーズ(The World in Miniature)の刊行をはじめ、美しい彩色図版を含む書物の刊行を得意としていました。ショベールが提携していたルドルフ・アッカーマン(Rudolph Ackerman, 1764-1834)は、色彩図版の再現技術の革新に大きく貢献し、アクチアントやリトグラフなど当時最新の印刷技術を用いて、大判の彩色図版を中心とした書物作成に携わっていました。従って、彼らによって刊行された英語版は、当時最新の技術をもってティツィングの貴重な日本関係図版を再現したものとして、その完成度が最も高いと言えるものです。
ショベールは序文において、オランダ人によって日本に関する知識が独占されてきた状況を憂い、本書によってイギリス人を含め広くヨーロッパに日本の知識を広めようとする意図を述べています。本文構成は、フランス語版の順序を一部変えながら、よりわかりやすく一貫性のある配置となるよう工夫されており、図版とその解説も近接して収録されています。ショベールの英訳は簡潔で大変読みやすいもので、戦後刊行された日本語訳もこの英訳本に基づいており、この日本語訳が「日本風俗図誌」という邦題であることから、本書も通称としてこう呼ばれています。また、この英訳版に基づいてオランダ語版も刊行されており、ティツィングの作品として現在まで最も広く知られる書物となっています。
(執筆:羽田孝之)
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