学習室エッセイ

イタリア文書館探訪 コロンナ文書館(1)

著者
小川仁
掲載年月日
2020-10-14

過去の事実や個々のつながりを紐解いていく歴史学研究。この学問にとって切っても切れないものといえば、古文書(こもんじょ)です。日本において古文書は、国立公文書館をはじめとして全国の博物館や資料館、寺社仏閣、個人宅等々、様々な場所に収蔵されています。

私は17世紀の日本とイタリアの交流史、とりわけ「17世紀イタリア人の日本像」を研究対象としており、関連する古文書が収蔵されているイタリア各地の文書館(もんじょかん)に足繁く通ってきました。本シリーズでは、私が調査の対象としているイタリア各地に点在する文書館を紹介していきたいと思います。

一重にイタリアの文書館といっても、教会・修道院付属文書館、教区文書館、中規模都市以上であれば各都市に設置されている国立文書館、個人や団体が運営する文書館など、その形態は実に様々です。もちろん、古文書を収蔵している図書館も数多くあります。そうしたなかで第一弾は、ローマの一大貴族コロンナ家の膨大な文書群をはじめ、天正・慶長遣欧使節関連史料も多数収蔵されているコロンナ文書館を数回にわたって紹介していきます。

[コロンナ文書館とサンタ・スコラスティカ修道院]

コロンナ文書館は、ローマから50㎞東に進んだ山合の小都市スビアーコにあり、ベネディクト会サンタ・スコラスティカ修道院図書館に併設されています。元々はローマのコロンナ宮殿内に当該文書館があったようなのですが、1965年から1995年にかけてイタリア文化財・文化活動省主導のもと、サンタ・スコラスティカ修道院図書館内に移設されました。

サンタ・スコラスティカ修道院は、非常に辺鄙な場所にあり、スビアーコの市街地を抜け、九十九折の山道を登って徒歩で40分程度(約3㎞)、車だとスビアーコ中心部から15分程度のところに位置しています。山間にこだまする川のせせらぎを耳にすることはできても、その川が流れる谷底は全く見えないほどに谷深い断崖絶壁、最初にこの修道院を訪れた時には、その偉容に驚きを隠すことができませんでした。なぜ、こうした場所に修道院があるのでしょうか。それは、ベネディクト修道会の創始者、ベネディクトゥス(480年頃~547年)がサンタ・スコラスティカ修道院から2㎞ほど登ったところにある「聖なる洞窟」で隠修生活を送ったことに由来しているのですが、次回もう少し説明します。(つづく)