学習室エッセイ

松田清先生 講演レポート(共同研究会第一回)

著者
クレインス桂子
掲載年月日
2020-10-27

第 1回「西洋における日本観の形成と展開」共同研究会レポート

令和3(2021)年10 月23 日(土)~24 日(日)に第1 回「西洋における日本観の形成と展開」共同研究 会を開催しました。初日はフレデリック・クレインス代表による趣旨説明、各共同研究員の自己紹介、共 同研究会運営方針の検討を行いました。二日目は井上章一所長と松田清(京都大学名誉教授・神田外語大 学客員教授)それぞれの基調講演としてご発表を頂きました。以下に松田先生のご発表「日文研外書―思 い出の書物と最新の収書―」の内容を簡単にまとめました。

松田清先生は、1987 年の日文研創設期から十年余り、蘭学資料調査のためにライデン大学を訪書され るなど、日本関係欧文図書(日文研外書)の収集に従事され、『日本関係欧文図書目録―1900 年以前刊行 分―』(1998)の編集を行われました。

今回の発表では、まず前半部分で、これまでの収書で思い出として残る書物の書誌的特徴をご紹介頂き ました。また、後半部分では、最新の収書として、A.G.ルイシウス編『総合歴史地理系譜学辞典』(ハー グ・デルフト、1724-1737 刊、全8 巻)における日本像と出版史についてお話し頂きました。

前半部分の思い出の書物として最初に挙げられたのはスハウテン『東インド紀行』の山村才助手沢本 (宮城県図書館伊達文庫所蔵)です。この書物は、日本に渡航できなかったスハウテンがバタヴィアで得 た情報を基に日本に関する情報を記述したものです。同書の写真を提示され、所蔵者による赤通しがあ る、つまり注意深く読まれたことも指摘されていました。

また、イエズス会の自然哲学書であるアタナシウス・キルヒャー『地下世界』オランダ語版は、オラン ダの玩具・古書店の奥の方で見つけられたとのことで、当時のことを懐かしく語られていました。 次いで、17 世紀オランダを代表する銅版画家であるロメイン・デ・ホーヘの『東西両インド図譜』か らは、偶像崇拝の図や日本人の服装・行列・偶像・日本の警備隊詰所・騎馬訓練・日本の乞食(托鉢僧?)・ 出島の交易などを描いた図版を示されながら、日本についてのイメージの表象についてご教示頂きまし た。

このほか、18 世紀オランダの作家・詩人ファン・ハーレン『潔白証明』、同『著作集』、アベ・ドラポ ルト『フランス人旅行家』、銅版彩色が美しいシーボルト『オランダ園芸年鑑』を挙げられていました。 後半部分の最近の収集のこととして、A.G.ルイシウス編『総合歴史地理系譜学辞典』との出会いについ てお話されました。ルイシウスは、モレリー『歴史大辞典』の編訳に一人で取り組み、同書のオランダ語 版を刊行したそうです。これについての詳細は、ご論文「桂川甫賢筆ヒポクラテス像の賛、新出二種の典 拠について」(『神田外語大学日本研究所紀要』no.13, pp.63-104, 2021 年)をご参照ください。

今後の課題として、モレリー『歴史大辞典』の日本項目はオランダ人にいかに翻訳されたかという点を 挙げられていました。また、基本テーマの18~19 世紀における展開として、ケンペル・チュンベリーを 挙げられ、ヨーロッパにおける知のあり方を焦点に探究していくことが重要ではないかと指摘されてい ました。

ご発表を通じて、この時代のフランス・オランダへの日本情報の表象についての研究課題を牽引する原 動力となって頂ける博覧強記のお力を感じさせられました。