学習室エッセイ

「モノと史料をつなぐ」シリーズ 第一回 鉛筆と家康 平戸オランダ商館文書にみられるモノ(1)

著者
クレインス桂子
掲載年月日
2021-03-03

平戸オランダ商館文書に含まれる「スペックス受信書状綴」(請求記号NFJ276)には、鉛筆と家康とを結び付ける記述がある。当時、平戸オランダ商館から派遣され、京都や大坂、堺で商務活動を行っていたエルベルト・ワウテルセンが、平戸オランダ商館長ジャック・スペックスに宛てて書いた1615年9月10日(元和元年7月18日)付の京都からの発信書状(NFJ 276, フォリオ番号なし)に、次の記述がみられる。

「大御所様〔家康〕は鉛筆3斤分、1斤当たり3½匁で購入してくれた。」

このワウテルセンの報告によると、家康はこの頃にオランダ人から鉛筆(potloodt)を購入している。

ワウテルセンは、その1カ月少し前の7月29日(慶長20年閏6月4日)付スペックス宛京都発信書状で、平戸から送られてきた鉛筆を受け取ったと報告しているので、その購入時期は、1615年7月29日から9月10日までの間と推定される。家康は大坂夏の陣の後もしばらく京都に滞在していたので、京都で購入されたのであろう。

ちなみに、同9月10日付書状には、平戸藩主・松浦隆信がオランダ人から1斤分の鉛筆を購入したとの記述もみられる。

久能山東照宮博物館所蔵の徳川家康関係資料のなかに、鉛筆が含まれている。その鉛筆は、硯箱に入った状態で発見されたことから家康所蔵のものとされている。もしかしたら、ワウテルセンが書状で報告しているオランダ人からの購入品だったかもしれない。現存品と史料との意外な関連性を考えるのも楽しいものである。