学習室エッセイ

「モノと史料をつなぐ」シリーズ 第二回 スペックスの漆塗り硯箱 平戸オランダ商館文書にみられるモノ(2)

著者
クレインス桂子
掲載年月日
2021-06-30

1609年に平戸で設立されたオランダ商館の初代商館長ジャック・スペックスは漆塗りの硯箱を愛用していたようである。そのことは、スペックスの後任として1612年に平戸オランダ商館の第二代商館長となったヘンドリック・ブラウエルがボット総督宛に送付した1613年1月29日付書状(VOC 1056)から分かる。その書状において、ブラウエルは次のように記している。

レーウ号で硯石50個および固形墨480個の入った箱を一つ送る。いくつか残れば、若者を教えるための在バカン(現インドネシアの島)の学校教師用に役立つはずである。私は経費に留意した。そうでなければ、それらを、ジャック・スペックスが手元にいくつか持っているような漆を塗った小箱に入れてよりきれいな形で送っただろう。そのようなものが注文されたら、非常に喜んでそれらも送る。

ブラウエルは、1612年8月にレーウ号で平戸に来航した。この船は、その翌年1613年2月13日にハーゼウィント号とともにアンボイナへ向けて平戸から出航している。初代商館長としての任期を終えたスペックスも、この船に乗って日本を一旦離れた。

同書状には、ブラウエルが日本に到着した前後の時期に起こったことについての報告や、まもなく出航予定の同船に積載する荷物についての説明などが記されている。同書状は、その日付と内容から、出帆間近の同船に託して送付するために書かれたものであろう。

さらに、同書状には、日本の漆器について、次の記述もみられる。

この商品は極めて高価であるが、格別に美しく、実際にみた通り、時間のかかる大変な手仕事で製作されている。そこに沸騰した湯を注いでもまったく傷まない。

このように、日本の漆器は、スペックスが愛用していただけでなく、ブラウエルも高く評価していた。