学習室エッセイ

共同研究会レポート「牧健二と日欧交流史研究」

著者
小川仁
掲載年月日
2022-02-24

10月23,24日に開催されたクレインス班の共同研究会「西洋における日本観の形成と展開」。一日目は27名にのぼる共同研究会メンバーのそれぞれの自己紹介、二日目は井上章一日文研所長、松田清京都大学名誉教授による基調講演があり、議論も白熱し盛会裡のうちに終わりました。今回は一日目の井上所長と瀧井一博日文研教授の自己紹介から、「西洋における日本観」研究の草分け的存在、牧健二京都大学名誉教授(1892~1989年)の回顧談を取り上げて、お送りいたします。牧先生は、1918年に京都帝国大学文科大学史学科、1921年に京都帝国大学法学部を卒業し、1923年から1945年まで京都大学法学部に在職、その後も京都学芸大学(現在の京都教育大学)、龍谷大学などで長きにわたり教鞭を取られ、法制史が専門でありながら、日欧交流史研究にも注力し、当該研究分野においても多大なる足跡を残した研究者です。(小川仁)

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井上所長

私はクレインスさんが主催される共同研究班のテーマを聞いたとき、真っ先に牧健二を思い起こしました。牧健二さんは京大法学部の先生で、瀧井さんの先輩にあたる方だと思います。本来は鎌倉時代、いや平安時代なのかなぁ、扱われる時代は榎本さんと近い方ですが、守護地頭論争をずっと東京大学の中田薫教授と延々と繰り広げてきた方です。彼自身の主な仕事も、そちらの方にあったと思います。そんな法制史家が、『西洋人の見た日本史』という本を著しました。大変優れた本ですが、でも彼の余技であったと思います。本業のついでにこういう本を書いてしまう。ほんと昔の先生は偉かったんだな、そう私がしみじみ思う先生の一人です。

瀧井教授

日文研の瀧井です。私は、もともとは法制史が専門であります。京都大学出身なので、クレインス先生が最初にお名前を出された、牧健二先生が偉大な先輩ということになります。ということで牧先生の本、『近代に於ける西洋人の日本歴史観』、『西洋人の見た日本史』は持っております。法学部、大学院にいたときは、法学部図書館のなかに、日文研の外書に当たる本が非常に多くあって、びっくりしました。何で法学部図書館に、このような本がたくさんあるのかと思っていたのですが、これはおそらく、牧先生が一生懸命に集めていたもので、これらを土台にして、先ほど述べた2冊の本を書き上げたんだなぁと考えてます。

牧先生は非常に微妙な立場の方でありまして、戦前は、先ほど井上先生から地頭論争の話もありましたけど、国体論、日本固有論を活発に議論されていた方で、戦後は京大を去らなければなりませんでした。戦前の有名な京都大学の瀧川事件でも難しい立場に置かれて、大変な名著を書かれたのですけれども、なかなか扱いが難しいというところがあります。そういう意味では、私は牧先生のこういったお仕事を、この共同研究会のなかで、どのように評価すべきかということを考えてみたいと思っております。