韃靼図

制作年 1814
制作者 トムソン
出版地 ロンドン
言語 英語
イギリス
分類 アジア図

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解説

    スコットランドの地図製作者トムソン(John Thomson, 1777-1840?)が、『新一般世界地図帳(New General Atlas. 1817)』のために刊行した地図で、韃靼(TARTARY)を描いています。韃靼(TARTARY)とは、カスピ海から太平洋沿岸までの非常に幅広いユーラシア大陸の地域を指す言葉です。モンゴル帝国に由来する言葉ですが、19世紀まで中央アジアから北アジア地域全般を概ね指していました。
 本図でも、西端にカスピ海を取り、東端には日本までを含む幅広い地域が描かれています。地図は、大きな地域ごとに輪郭が彩色されており、独立タルタリ(INDEPENDENT TARTARY)、中国タルタリ(CHINESE TARTARY)、ペルシャ(PERSIA)、ヒンドゥスタン(インドのこと)(HINDUSTAN)、中国(CHINA)、ビルマ帝国(BIRMAN EMPIRE)、朝鮮(COREA)、日本列島(JAPAN ISLANDS)、北海道(JESSO ISLAND)などが色分けされて示されています。記されている地理情報については、非常に充実しており、これはヨーロッパにおいてこの地域の地理情報の蓄積が相当に豊富であったことを反映しています。
 日本については、同じ地図帳のために1815年に作成された「朝鮮と日本」に比べると輪郭性が不正確になってしまっています。例えば、北海道の本州と隣接する南部の輪郭は、バッサリと切り取られたようになっており、「朝鮮と日本」図に比べると著しく正確さを欠いてしまっています。その一方で、ラ・ペルーズ(Jean Francois Galaup, Comte de La Pérouse, 1741-1788)によって1784年に確認された宗谷海峡が、ラ・ペルーズ海峡(Strait of La Perouse)として描かれています、また、樺太は正確に島として描かれていて、間宮海峡もタタール海峡(CHANNEL OF TARTARY)として明記されています。こうした正確さと不正確さとが混在しているのは不思議に思われますが、本図の主眼が、あくまで韃靼地域を正確に示すことにあったことに鑑みると、日本の本州や北海道南端地域よりも、北方地域を正確に描くことに意識が向けられたためと解釈できます。

(執筆:羽田孝之)