ライブラリー地図
アジア及び隣接島嶼図
解説
この地図の制作者である、ジョン・スピード(1551?−1629)は、17世紀前半を代表するイギリスの地図制作者で、イギリス人による最初の世界地図帳である『世界の名所眺望(A Prospect of the Most Famous Parts of the World)』を1627年に刊行しました。
スピードは、同じく17世紀前半を代表するオランダの地図制作者であるヨドクス・ホンディウス(1563−1612)と提携して、自身の世界地図帳の出版にあたって、本図をはじめとした多くの図版をホンディウスの地図帳から借用しています。ただし、そのまま借用するのではなく、地図の説明や表記は全て英語に改めた他、一部の装飾などを変更して用いています。本図の原型は、ホンディウスが出した1623年のアジア図と思われますが、地図を取り巻くアジア各国地域の人物を描いた装飾部分にも変更が加えられており、各枠に描かれる人物が一人(ホンディウスの地図では二人)になっています。ここで描かれる人物像に日本人は見当たりませんが、同じスピードによって同時期に作成された「中国王国図」において日本人の人物像が確認できます。ホンディウスのアジア図は、その後、ブラウ家によるアジア図にも転用されており、両者は非常によく似ていますが、英語圏ではスピードによる本図が普及したため、装飾部分と表記言語で区別することができます。
地図を東西に横切る二本の赤線は、説明にもあるように南を通るものが、北回帰線、北を通るものは、北極圏を表しています。また、地図下部には、赤白青の線が東西を横切っていますが、これは赤道線を示しています。日本図については、北海道は全く描かれていませんが、これ以外の地域における主要な都市については細かく記されています。日本についての地図情報は、オルテリウスの1595年の日本図が、当時最も有力なものとして流布しており、本図もそれに従って日本が描かれているようです。ただし、地名の表記場所がかなりずれてしまっており、例えば京都(Meaco)は、日本海沿岸に近い場所に示されてしまっています。また、琵琶湖もこの地図では示されていません。その反面、1595年の日本図では島として描かれていた朝鮮半島が、この図では大陸とつながった半島として描かれています。
本図は、イギリス人によってイギリスで刊行された初めての画期的な世界地図帳に含まれていたことから、イギリスで流布した日本図として長らく流布し、17世紀後半にいたるまで本図が再版されました。
(執筆:羽田孝之)