ライブラリー地図
ケーレ制作「日本図」(1630年刊)
解説
1630年にフランス語で刊行されたメルカトルの地図帳に収録された日本地図で、基本的には1595年のオルテリウス「テイセイラによる日本列島図」を踏襲しています。内容面では、オルテリウスの地図にあった装飾が取り除かれていることを除くと、朝鮮半島部分にラテン語のテキストが追加されていることが主要な変更点です。オルテリウスの地図では、朝鮮半島が誤って島として描かれていますが、この地図では地形はそのまま踏襲しつつも、朝鮮が島なのか半島なのかは定かではない旨の説明が追加されています。
オルテリウスの日本地図は、彼の盟友であったメルカトル(1512-1594)がその版権保有者でしたが、メルカトル自身はこの地図を発表するまでに亡くなっています。日本地図を含むオルテリウス地図帳の版権は息子のルモンドに引き継がれますが、地図制作者のヨドクス・ホンディウス(1563-1612)が1604年にそれを買い受け、新たに版を起こして、1606年に自身の地図帳(Gerardi Mercatoris-Atlas Sive Cosmographicae Meditationes…)として刊行し、そこにも「日本図」が含まれています。この時に彫版師としてヨドクス・ホンディウスの下で働いていたのが、ケーレ(1571-?)で、彼の彫った日本図は、ヨドクス・ホンディウスの義理の息子であるヤンソニウス(1588-1664)による地図帳に収録された「日本図」にも引き継がれ、ほぼ改訂を加えられることなく、繰り返し再版されました。本図は、ヤンソニウスによる地図帳に収録されたものではありませんが、同じ系譜の上にあるもので17世紀前半に流通した典型的な日本地図の一つと言えるものです。
(執筆:羽田孝之)