ライブラリー地図
アジア図
解説
この地図を製作したクルーエ(1730-?)は、ルーアンのアカデミー会員で、テキストをふんだんに盛り込んだ事典的な地図帳や壁掛け世界地図などを出版していました。この地図は彼の代表作『現代地理学入門(Geographie modern avec une introduction. 1787)』に収録されていたもので、同書は何度か版を重ねていることから、当時それなりに人気を博したものと思われます。
地図は、ユーラシア大陸のヨーロッパ以東全体、並びに現在のインドネシアやフィリピンなどの島嶼部を描くもので、その名の通りヨーロッパ人から見た「アジア」全体が描かれています。大陸部では、シベリア(SIBERIE)、ペルシャ(PERSE)、アラビア(ARABIE)、大タタール(GRANDE TATARIE)、インド(INDES)がそれぞれ彩色して描かれており、中国(CHINE)、朝鮮(COREE)、日本(JAPON)は、同じ緑色で示されています。ボルネオ(BORNEO)とスマトラ(Sumatra)は赤色で、フィリピン(ISLES PHILIPINES)やモルッカ諸島(LES MOLUWUES)は緑でそれぞれ区分されています。
地図そのものに書き込まれている地理情報はそれほど多くありませんが、図の左右にびっしりと記されたテキストが非常に特徴的です。テキストではアジア地域全体の概要を述べるとともに、この地域の宗教についても言及しておりイスラム教圏や中国の宗教について論じています。また、日本については、オランダ人が自身の貿易利益のためにカソリックの危険性を強調したがゆえに、キリスト教徒がいなくなってしまったと述べられています。
日本を描いた地図上に書き込まれている地名は、京都(都、Meaco)、江戸(Jedo)が目につくほか、九州を意味する下(Ximo)が、四国の下に記されていることが確認できます。また、琉球(Lekyo)や、蝦夷(Yeso)も描かれていますが、後者は、1643年に択捉島や得撫島周辺をヨーロッパ人として初めて航海したフリース(1589−1647)の情報をもとに、先行するダンビル(1697-1782)の地図などを参照して、その独特な輪郭を描いています。フリースが「オランダ東インド会社の土地(Terre de la Compagnie)」と命名した得撫島の輪郭も確認できます。
元々が地理学入門書として作成されているもので、テキストと地図の両方において、アジア地域について簡潔に学習できるようになった大変ユニークな地図です。なお、当館は、クルーエが中国、朝鮮、日本を中心に描いた「中国王国図」も所蔵しています。
(執筆:羽田孝之)