中華帝国図

制作年 1787
制作者 クルーエ
出版地 パリ
言語 フランス語
フランス
分類 アジア図

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解説

    この地図を製作したクルーエ(1730-?)は、フランスのルーアンのアカデミー会員で、テキストをふんだんに盛り込んだ事典的な地図帳や壁掛け世界地図などを出版していました。この地図は彼の代表作『現代地理学入門(Geographie moderne avec une introduction. 1787)』に収録されていたもので、同書は何度か版を重ねていることから、当時それなりに人気を博したものと思われます。
     地図そのものに書き込まれている地理情報はそれほど多くありませんが、図の左右にびっしりと記されたテキストが非常に特徴的です。左側では、まず本図の主題である中国帝国についての情報がその歴史も含めて詳細に記されています。右側に目を向けますと、手短に記された朝鮮に続いて、日本について記されていることが確認できます。テキストでは、ポルトガル人の来航から始まるヨーロッパ人と日本人との交流の歴史が述べられた後に、天皇(内裏、Dairo)と将軍(Empéreur)との違いや統治機構についても触れてから、日本の地理について解説しています。日本列島は、「日本(本州を指す、Niphon)」、「九州(Kiu-siu)、あるいは下(Ximo)」そして「四国(Sikokf)」からなっているとして、それぞれの説明が続いています。
    地図上に書き込まれている地名は、京都(都、Meaco)、大坂(Osaca)、江戸(Jedo)と決して多くありませんが、テキストにおいてはさらに長崎など特にヨーロッパと関係の深い地についても説明されています。また、琉球(Lekyo)や、蝦夷(Jeso Gasima)も描かれていますが、後者は、1643年に択捉島や得撫島周辺をヨーロッパ人として初めて航海したデ・フリース(1589−1647)の情報をもとに、先行するダンビル(1697-1782)の地図などを参照して、その独特な輪郭を描いています。
    元々が地理学入門書として作成されているもので、テキストと地図の両方において、中国をはじめとした東アジア地域について簡潔に学習できるようになった大変ユニークな地図です。なお、当館はクルーエが描いた「アジア図」も所蔵しています。

(執筆:羽田孝之)