ミカド・ポルカ

出版年 1885?
作曲者/作詞者/編曲者 ブカロッシ(編曲)
出版地 ロンドン
編成 ピアノ
イギリス
分類 シートミュージック

解説

<ミカド・ポルカ>The Mikado Polka(1885年)は、日本を題材にした喜歌劇『ミカド』The Mikado(1885年)の劇中歌を基に、当時イギリスで軽音楽作曲家・編曲家として活躍していたプロチーダ・ブカロッシProcida Bucalossi(1832-1918年)がピアノ独奏用に舞曲としてアレンジした楽曲です。
本楽曲の元となった『ミカド』は、劇作家ウィリアム・シュウェンク・ギルバート(1836-1911年)と作曲家アーサー・サリヴァン(1842-1900年)が組んだ、いわゆるサヴォイ・オペラ(サヴォイ劇場を中心に興行が展開されたコミック・オペラ)の中で興行的に最も成功した作品であり、1885年3 月14日の初演以降、672回というロングランを達成しました。当時、ロンドンでは日本の風俗文物を見世物とした日本展が人気を博し、イギリスでは空前の日本ブームの真っ只中。日本風の登場人物たちが巻き起こすドタバタ喜劇を通して、当時のイギリス政府を風刺した『ミカド』はこのブームに乗じた作品で、同時にジャポニスムまたはオリエンタリズムのイメージ形成の一端を担ったことでも知られています。
<ミカド・ポルカ>が発表された19世紀後期は、オペラやバレエの作品がしばしばオーケストラ・室内楽・ピアノ連弾・ピアノ独奏のための舞曲としてアレンジされ、公演用のみならず個人や小規模のサロンなどで身近にダンスを楽しむために用いられていました。 本楽曲もそのうちのひとつであり、<ミカド・ポルカ>が作られた1885年には同じくブカロッシの編曲で<ミカド・ワルツ><ミカド・ランサー><ミカド・クワドリル>といった4つの形式の舞曲作品が次々と発表されています。
本楽曲は「イントロ」「ポルカ」「トリオ」「コーダ」といった4つの部分から成り、全体を通して4分の2拍子の軽快なリズムとテンポのなかで曲が展開していきます。ダンスの幕開けを華々しく宣言するかのような「イントロ」に続いて始まるのは歯切れの良いリズムが際立つ「ポルカ」。「ポルカ」は『ミカド』第1幕の中盤で演奏される<学校帰りの3人娘(Three Little Maids from School)>を基に、ヘ長調の軽妙なメロディーが印象的です。

🔈 ブカロッシ編曲〈ミカド・ポルカ〉より「イントロ」と「ポルカ」冒頭

 

「ポルカ」の展開部では、やや憂いを帯びた短調のメロディーが顔を覗かせ、豊かな表情を際立たせます。

🔈 ブカロッシ編曲〈ミカド・ポルカ〉より「ポルカ」転調部分

 

続く「トリオ」は、『ミカド』第2幕の冒頭曲<カラスの髪結い(Braid the Raben Hair)>を基軸に、4小節1フレーズの耳に馴染みやすい変ホ長調のメロディーが曲全体を軽やかにまとめ上げ、「コーダ」では「ポルカ」のハイライトを呈しつつ、力強いフィナーレに流れ込んで曲が結ばれます。

🔈 ブカロッシ編曲〈ミカド・ポルカ〉より「トリオ」冒頭部分

『ミカド』の劇中歌には、時に<宮さん宮さん>など日本的な旋律も見られますが、<ミカド・ポルカ>に含まれる<学校帰りの3人娘><カラスの髪結い>には、邦楽曲に見られる旋律的・和声的な特徴が希薄であることから、全体的に典型的な西洋風舞曲に仕上がっています。その中で、本楽曲は『ミカド』に作曲を附したサリヴァン独自のハーモニーの枠組みとメロディーを壊さぬまま、2つの楽曲をもって1つの舞曲としてまとめ上げた、編曲者としてのブカロッシの妙技を垣間見ることのできる一曲です。

(執筆/演奏:光平有希)

もっと詳しく見る

日文研図書館OPAC

日本関係欧文貴重書DBへのリンク