ライブラリー楽譜
麗しき日本娘
解説
本作の生みの親であるハーグマンAbraham Coenraad (Armand) Haagman(1884-1942)は、オランダで活躍した作曲家兼ピアニストで、映画監督や俳優としてもその名を知られた人物です。ユダヤ人商人の家に生まれたハーグマンは、ベルギーのアンデルレヒトとブリュッセルで育ち、リエージュの音楽学校で作曲やピアノを学びました。その後、世界中を旅して様々な音楽に出会ったハーグマンは、オランダに定住し音楽活動に勤しみ、幅広いジャンルの作曲で名声を得ました。オランダでは、歌手・女優として活動していたルイゼットLouisette(1882-1965)と恋仲になり、ハーグマンはルイゼットに複数の歌曲を提供したほか、彼女を主役にした映画の制作にも精力的に取り組みました。
第二次世界大戦下の1942年、ハーグマンはアムステルダムのユダヤ人地区に引っ越すことを余儀なくされます。その後、アウシュヴィッツに移送された彼は、58歳の時に収容所内のガス室で殺害されました。
3部で構成されるピアノ作品〈麗しき日本娘〉は、やや憂いを帯びた2拍子ハ短調のメロディーが淡々と奏でられるなか、17小節目からは、1オクターブを半音階で下降する特徴的なユニゾンが、25小節目からはじまる和音と符点リズムの融合による安定感あるハーモニーへといざないます。つづく展開部では変ホ長調に移調し、ここでも1オクターブがメロディーラインとバスで多用されることによって、重厚さを残しつつ明るみをもった曲奏が展開。最初の提示部とほぼ同内容の再現部で曲が結ばれます。
(解説:光平有希)