小学唱歌

出版年 1904
作曲者/作詞者/編曲者 カペレン
出版地 ライプツィヒ
編成 ピアノ・歌
ドイツ
分類 楽曲集

解説

《小学唱歌:伊澤修二による日本の旋律》の編曲者ゲオルク・カペレンGeorg Capellen (1869-1934)は、ドイツ北西部のザルツウフレン出身の音楽理論家、批評家にして作曲家としても活躍した人物である。彼は自身の和声理論のほか、異国の音楽様式に関する著作・論文を複数執筆した。

本作に付された「前書き」を見ると、カペレンは編曲にあたり、お雇い外国人として滞日経験のある書き手による著作のほか、比較音楽学者オットー・アブラハムが手がけた論文「日本人の音組織と音楽に関する研究」(1903)を参考にしたことがわかる。同論文は、1901年の川上音二郎一座のベルリン公演を契機に執筆され、日本音楽の音階、音高、音程が詳述された。カペレンは複数の著作を参考にしつつ日本音楽への知識を深め、編曲へと活かしていった。

《小学唱歌:伊澤修二による日本の旋律》は、伊澤修二が編纂を主導した日本初の五線譜による音楽教科書《小学唱歌集》第1巻より13曲を抜粋し、さらに日本古謡〈さくらさくら〉を付け加えた形で編曲されている。《小学唱歌集》は1879(明治12)年、伊澤の主唱で創設の文部省音楽取調掛が、学校教育用に編纂した唱歌集である。《小学唱歌:伊澤修二による日本の旋律》では、ドイツ語と英語で書かれた各曲の曲名と簡単な曲が紹介され、それぞれの下にカペレン編曲の調性による唱歌の旋律の掲載が認められる。唱歌の旋律にはローマ字で日本語の歌詞がふられ、さらにドイツ語と英語に翻訳された歌詞が附された。また、楽譜の左下には旋律の音階が示されており、カペレンが西洋の7音音階を基盤に置きながら、どの音が用いられ、またどの音が欠けているのかを検討の軸にしていたこともうかがえる。

日文研所蔵の本作には、横浜の楽譜(楽器)販売店「ドーリング商会」の押印が認められる。ドーリング商会は、1881(明治14)年に外国人居留地で開業したドイツ系の楽器商である。明治期日本の横浜にあった外国人居留地は、西洋楽器製造の中心地だった。そこでは、日本で最初にピアノ製造販売の広告を出したクレーン&カイルをはじめ、モートリー商会やスウェイツ商会といった欧米の楽器商、さらに初めてオルガンを量産した日本人技術者である西川虎吉創業の西川楽器製作所、中国人技術者が起こした周興華洋琴製作所や李兄弟ピアノ製作所など、多くの楽器メーカーが鎬を削っていた。楽器だけではなく楽譜をも商うドーリング商会は、東京音楽学校にも数多くの楽譜を納入していた。この時代、ドイツは日本の唱歌を西洋に伝えたばかりか、日本での楽器や楽譜の普及においてもその中心にあった。

(解説:光平有希)

もっと詳しく見る

日文研図書館OPAC

日本関係欧文貴重書DBへのリンク