ライブラリー図書
ジョン・ミドルトン・クレイトンへの手紙
解説
本書は、ペリー(Matthew Calbraith Perry, 1794 -1858)の日本遠征隊の実現に向けて活躍したロビイストであったパルマー(Aaron Haight Palmer, 1782? – ?)による調査報告と提言書です。当時アメリカがまだ通商関係を有していなかった日本を含むアジア・アフリカ各地の実情に関する調査報告と、アメリカがこれらの諸国と通商関係を結ぶための遠征団派遣を提言する内容で、1849年に刊行されています。
パルマーは、ニューヨークで通商の為の事務所を開いていた法曹人で、政財界とのコネクションを強める中で大陸横断鉄道実現や、太平洋を挟んだ東アジアとの交易拡大を主張するロビイング活動を活発に展開していました。彼は特に日本との通商関係を樹立することがアメリカの大きな国益になることを熱心に主張し、自ら膨大な調査報告書を作成して、政府関係者に提言を繰り返しました。本書は時の国務長官クレイトン(John Middleton Clayton, 1796 – 1856)へ提出したもので、一種の議会文書としてワシントンで刊行されています。
パルマーは、アフリカや太平洋を挟んだ東アジア諸国との貿易をアメリカが積極的に推し進めることで、大きな利益と影響力を得ることができると強く主張しています。パルマーが言及している地域は、コモロ諸島、東アフリカ、アビシニア(エチオピア)、アラビア(イエメンをはじめとする中東)、ペルシャ(イラン周辺)、バルチスタン(パキスタン西部)、中央アジア、ビルマ(ミャンマー)、コーチシナ(ベトナム南部)、(東)インド諸島 (マレー諸島、フィリピン含む)、朝鮮、シャム(タイ)、中国、そして日本と、本書以前に刊行していた報告や提言でも言及されていた多岐にわたる地域です。その中で最も可能性が高いと主張されているのが日本で、他地域が概ね数行から1ページ程で論じられているのに対して、日本は10ページ近くにわたって論じられています。
また、こうした地域ごとの記述に続いて、「大西洋と太平洋間(を接続する)運河、鉄道」「東方への使節(派遣)」といった記事があり、本土の西部開拓を太平洋にまで進めたアメリカが、さらに太平洋を介して日本や中国と結び付けられることによって、いかに大きな利益を得られるのか、また大英帝国より海洋覇権を受け継ぐか、が述べられています。さらに、補遺(Appendix)としてAからLまでの記号が付された補足記事が掲載されており、ここではアメリカと中国との通商関係やアヘン貿易の現状、シャム王国の状況を論じた記事や「日本政府:外国人の排除」「日本の茶、絹、その他:日本市場に適したヨーロッパとアメリカの商品」「近年(シーボルトにより)オランダへ輸入された日本の商品、灌木等」「日本語辞書リスト」(イエズス会士ロドリゲス通詞著書の仏語訳、シーボルトの日本語要略等含む)「ジェームズ・グリン提督率いる米艦プレブル号の那覇と長崎への航海」「ベーリング海峡と北極海における新しいアメリカの捕鯨」等の非常に興味深い記事を見ることができます。
なお、本書はオランダの当局関係者の強い関心を呼んだようで、当時蘭領インド政策の再建に尽力していたホェーフェル男爵(Wolter Robert, baron van Hoëvell, 1812 – 1879)によって『蘭領インド雑誌』1849年号にオランダ語訳が掲載されたほか、この書簡をパルマーから直接受け取ったオランダ出島商館長レフィスゾーンが自著『日本雑纂』にて言及しています。
(執筆:羽田孝之)
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