日本の知識への寄与

出版年 1833
著者 フィッセル
出版地 アムステルダム
言語 オランダ語
オランダ
分類 オランダ商館、日本文化史

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解説

 著者のフィッセル(Johan Frederik van Overmeer Fisscher, 1800-1848)は、1820年から1829年の間にかけて日本に滞在した出島商館員で、ドゥーフ(Hendrik Doeff, 1777-1835)の後任商館長ブロムホフ(Jan Cock Blomhoff, 1779-1853)の江戸参府(1822年)にも随行しています。フィッセルは滞日中に書物、焼き物、絵画、仏像、衣装などを大量に蒐集していて、現在もそれらはライデンの民族学博物館に収蔵されています。
 本書は、これらを活用しながらフィッセル自身の見聞をまとめた日本論です。テキストは全12章構成で、各章ごとに設けられたテーマに沿って、フィッセルが調べたことや見聞したことが記されています。特に人々の文化や生活についての記述が充実しており、書物だけからではなく、実際に彼が見聞したことに基づいて書かれてるため、当時の日本文化を知るための優れた資料と言えます。
 フィッセルの帰国後1833年に、本書は刊行されましたが、図版に彩色を施して特別の装丁を誂えた特装版と、白黒の図版を収録する通常版との二種類があり、当館が所蔵しているのは特装版です。表紙には、徳川家の葵紋と天皇の菊花紋(ただし一部改変されています)が金箔で描かれています。本書は、フィッセルが持ち帰ったコレクションから取られた図版が豊富に収録されていることも特徴の一つで、口絵に描かれた神農と伏犧の図は、葛飾北斎の『北斎漫画』に掲載されている同図を参考にしています。本書に収録された他の図版も北斎や川原慶賀ら日本の画を典拠としています。
 まず、前書きでは、日本について調査することは、外国人にとって容易ではないことを強調。続く序文では、習慣・宗教・政治についてヨーロッパに劣らない日本という国について正しい像を描き出すことが、本書の意図であると述べています。序文は日本についての概説にあてられており、日本の歴史、ヨーロッパ人との交流史、統治機構、階級制度、司法制度、税制、交通網、食べ物、人々の気質などについてコンパクトに解説しています。
 第1章(65ページ)は地理情報を解説しており、富士山を描いた図が冒頭に掲載されています。緯度、経度、地形の特徴や気候、産出物、山河の風景、支配領域などがここでは説明されます。
 第2章(88ページ)は学問と言語を扱い、かな文字の一覧図が掲載されています。ここでは日本語の考察に特に力が入れられており、ドゥーフ(Hendrik Doeff, 1777-1835)がフランソワ・ハルマ(François Halma, 1653-1722)による蘭仏辞書を基礎として作成した蘭和辞書ドゥーフ・ハルマも賞賛しながら紹介しています(92ページ)。また、100ページからは、オランダ語とアルファベットで表記した日本語とを併記した会話帳も収録しています。
 第3章(116ページ)は、骨董品や古銭、稀覯品についての紹介で、老哲学者を描いた図が掲載されています。ここでは、「珍しい(Mierasji)」とされる日本の品々が紹介されています。第4章(129ページ)は、書画の技法について論じ、絵を描く婦人の図が掲載されています。日本の技術はヨーロッパには及ばないとしながらも、独特の画法を有しているとして紹介されています。
 第5章(137ページ)は、宗教を扱い、寺院の内部を描いたとする図が掲載されています。ここでは、日本人は自身が神の末裔であると信じていると紹介し、神道の解説から始められています。またその関連で内裏(天皇)と公家のしきたりについても紹介しています。続いて仏教についても解説しています。
 第6章(158ページ)は、兵器と武器について解説しており、源義経を描いた図が掲載されています。日本は、武力と勇敢さでその独立を確立した国であるとして、軍機構や演習の様す、具体的な武器について紹介しています。
 第7章(175ページ)は、奢侈と贅沢についてと題されていて、贈答習慣や衣装、豪華な食事、祝祭日などが紹介されています。ここでは女中にかしずかれた礼装の日本人夫妻を描いた図が掲載されています。
 第8章(197ページ)では、様々な娯楽を紹介しており、旅芸人を描いた図が掲載されています。日本人は娯楽の追求に熱心で、もはや義務であるかのようであると論じています。音楽や舞台芸術、見世物についての紹介もされています。
 第9章(211ページ)は、動植物についての解説で、特に人々の生活に関係する動植物について説明しています。馬車が利用されておらず、乗馬以外の目的に使われていないことや、羊やロバが全くいないことを報告しています。ここには農業神としての稲荷大明神の図が掲載されています。
 第10章(223ページ)は、家事と生活を解説しており、日本では家事が極めて簡素に済ますことができるため、余暇に充てる時間が豊富であると述べています。また、日本の清潔さを賞賛する一方で戸締り設備がほとんどない点を欠点としてあげています。後半では衣装や化粧についても説明しています。ここでは5歳の袴着の儀を描いたと思われる図が掲載されています。
 第11章(240ページ)では、工業、産業全般を論じており、職人による版木掘りの場面を描いた図が掲載されています。職人が道具の手入れに熱心であることや彫刻の人気が高いこと、職人の賃金などの説明のほか、造船技術についての解説もあります。
 最後の第12章(254ページ)は、雑録として、ジャワから日本までの航海や、長崎に到着した際の様子、出島商館についての詳しい解説(264ページ)、そして江戸参府紀行(281ページ)に関する説明がここにはまとめて収録されています。収録されている図版は、野外での宴会を描いた図礼服を着た男性の図普段着の女性の図です。

(執筆:羽田孝之)

 

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