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世界周航日本への旅
解説
本書は、ペリー(Matthew Calbraith Perry, 1794-1858)による日本遠征に画家として参加した、ハイネ(Peter Bernhard Wilhelm Heine, 1827-1885)による遠征記録です。ハイネはドイツ出身の画家でドレスデンの宮廷劇場画家を務めていましたが1848年のドレスデン蜂起で革命側にいたため、その後アメリカに渡っています。アメリカでフィルモア(Millard Fillmore, 1800-1874)大統領の知遇を得、日本遠征派遣への参加を希望し、画家として採用されています。本書は、ハイネが参加した日本遠征の記録を、紀行文として2冊の本にまとめたものです。
本書は、遠征隊参加が決まるまでの経緯と自身の任務を中心に述べた序章と、出発してから帰国するまでの全35章、そして「日本とその住民」と題した日本論(第2巻247ページ)、海軍公文書類をまとめた文書集(同287ページ)、航路指南書(同357ページ)からなる、非常に大部の作品です。
日本に関する主な記事は、第12章「下田」(第1巻171ページ)から第17章「幕閣との会見」(同231ページ)と、第20章「3度目の琉球上陸」(同271ページ)から第27章「琉球への最後の上陸」(第2巻85ページ)、第29章「復路」(同113ページ)と、琉球や日本を訪れた際の出来事が本書には、数多く収録されています。ハイネの記述は画家のそれらしく、風景描写に富んでおり、また出会った人々の様子をいきいきと描いていて、本書は紀行文学としても大変優れた作品となっています。反面、付録として掲載した「日本とその住民」については、誤りが多く、当時の日本についての情報量を考慮してもあまり出来が良いとは言えず、多くの批判を受けました。とはいえ、刊行直後にオランダ語版が刊行され、続いてフランス語版も刊行されていることからもわかるように、本書は、ペリーの公式記録や他の類似書物の中にあっても、高い評価を受け、日本遠征記録関係の作品群においても古典的地位を占めています。なお、オランダ語版は、幕末になされた日本語訳の底本ともなっています。
ハイネはペリーの『日本遠征記』に多くの画を提供していますが、その中には自身の姿が描かれた作品もあります。ハイネは、同書にその多くが収録された石版画を自身でまとめて『日本遠征石版画集』を本書刊行と同年の1856年に刊行しているほか、本書刊行以降も多くの日本に関する書物を描き続けました。
(執筆:羽田孝之)
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