日本におけるキリスト教の勝利

出版年 1623
著者 トリゴー
出版地 ミュンヘン
言語 ラテン語
ドイツ
分類 イエズス会

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解説

本書は、1612年から1620年までの日本におけるキリスト教の状況を紹介するものです。当時の日本は禁教政策が本格的に激しくなってきており、日本での布教活動は相当厳しい時期を迎えていました。本書では、こうした日本の状況を、宣教師の報告書簡などをもとに詳しく描いており、厳しい状況下でも屈せずに信仰を守り通している信徒の姿を伝えようとしています。
著者のトリゴー(Nicolas Trigault, 1577-1628)はフランス出身のイエズス会士で、中国での布教で多く成果を挙げた実績で知られており、中国布教の先駆者マテオ・リッチ(Matteo Ricci, 1552-1610)の記録を基にして編纂した『中国キリスト教布教史』も著しています。
本書は、全5部からなりますが、全編を通じて、当時の日本におけるキリスト教徒が直面していた状況の説明と、具体的な迫害事件や殉教の場面が数多く紹介されています。長崎、豊後、薩摩といった具体的な地名を挙げながら多くの事件が描かれており、例えば、1614年の長崎有馬地方における弾圧は、事件全体の背景から経過、個別の殉教者の様子などが複数の図版、テキスト双方で詳細に報告されています。また、最終部(496ページから)では、日本における宣教活動の基本情報が収録されており、教区ごとの状況や信徒数、学校や教会などの施設とその破壊されたもの、殉教者の名簿などが記載されています。
テキストの秀逸さに加えて、本書は殉教の場面を生々しく描いた銅版画を多数収録していることでも有名で、当時の日本の状況をヨーロッパに視覚的に伝えるメディアとしての役割も果たしています。描かれている銅版画は、いずれも拷問や、処刑の場面を描いたもので、日本におけるキリスト教迫害が非常に残虐で暴力的であることを有無を言わさず表現しています。銅版画で描かれる様子が残虐で過酷なものであればあるほど、それだけにテキストで紹介される、殉教者の偉大さ、ひいてはキリスト教の偉大さが引き立つようになっており、まさにタイトルが示すように「日本におけるキリスト教の勝利」が示されることが、本書では意図されています。
なお、本書に掲載される銅版画は極めて凄惨な場面ばかりを描いていますが、そこに描かれている多くの日本人像はかなり写実的に表現されており、実際に事件に接した者による史料を手本としていると思われます。そのため、これらの銅版画は、衣装や髪型なども含めて当時の日本の姿を伝える資料にもなっています。

(執筆:羽田孝之)

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