日本教会史(イタリア語版 全4巻)

出版年 1722年
著者 クラセ
出版地 ヴェネツィア
言語 イタリア語
イタリア
分類 イエズス会士

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解説

 本書は、イエズス会士ジャン・クラセ(Jean Crasset, 1618-1692)により1689年に出版された『日本教会史』(Histoire de l’église du Japon)のイタリア語版です。クラセはフランスのディエップに生まれ、1638年にイエズス会に入会、パリ修練院で長く哲学・人文学を教授すると同時に、優れた説教師にして多くの修徳神学の著作を残した人物でした。『日本教会史』においてクラセは、フランス人イエズス会士フランソワ・ソリエー(François Solier, 1558-1638)著の『日本教会史』(Histoire ecclésiastique des îles et royaume du Iappon, 1627)を中心に依拠しつつ、布教初期のイエズス会士書簡集、平戸オランダ商館長を務めたフランソワ・カロン(François Caron, 1600-1673)やオランダ人著述家アルノルドゥス・モンタヌス(Arnoldus Montanus, 1625-1683)の記述も利用したとされています。そのため、ソリエーの著作では島原の乱以前の記述に留まっているのに対し、クラセはカロンやモンタヌスの著作も補完的に参考にすることで、ポルトガル人による日本到来、ザビエルの日本布教から鎖国体制確立後に布教活動が途絶える1650年代まで、日本におけるキリスト教の長期間にわたる布教通史を完成させました。『日本教会史』は、初版では2巻本だったものの、版を重ねるにおよび内容の充実が図られ、後に4巻本となっています。第1巻冒頭では、他の布教史や殉教録ではあまり見られることない、マルコポーロへの言及、日本の地誌、文化、風習、国体等の解説に109頁も割かれているのが大きな特徴の一つといえるでしょう。
 多くの版が重ねられた『日本教会史』には初版のほか、モンタヌスからの引用である江戸城図等の銅版画が複数付されている第二版(1691年)と、銅版画が付されていない第二版の再版(1715年)等が存在します。そのため1722年に出版された本書イタリア語版は1691年の第二版からの翻訳と考えるのが妥当と思われます。当該著作はイタリア語の他ドイツ語にも翻訳されており、この点のみに鑑みても、日本が当時のヨーロッパの人々にとって興味の引く対象であったことが見て取れます。
 日本では駐仏公使鮫島尚信が入手した1715年版が、太政官翻訳係により『日本西教史』として訳述され、明治11~13(1878-79)年にかけて出版されたものの、翻訳作業が短期間であったため省略や誤訳が多いとされています。いずれにしても、初めての日本キリシタン通史として、のちのキリシタン研究に多大な影響を及ぼしたのは紛れもない事実です。
 なお、イタリア語版の翻訳者アルカンジェロ・アゴスティーニ(Arcangelo Agostini, 1660?-1745)は、ヴェネツィア出身のカルメル会修道士で、フランス語で著された神学書やキリスト教史の著作の多くを、イタリア語に翻訳した人物でした。フランス人ジャック=ベニーニュ・ボシュエ (Jacques-Bénigne Bossuet, 1627-1704)が、王権神授説を唱えた著作として有名な『世界史叙説』(Discours sur l’histoire universelle, 1681)を、イタリア語に翻訳したのもアゴスティーニです。アゴスティーニは、どの翻訳著作でも本名ではなくペンネームであるセルヴァッジョ・カントゥラーニ(Selvaggio Canturani)を用いており、本書もその例外ではありません。

(執筆:小川仁)

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