ライブラリー図書
チャールズ・ジャレッド・インガーソール下院議員への手紙
解説
本書は、ペリー(Matthew Calbraith Perry, 1794 -1858)の日本遠征隊の実現に向けて活躍したロビイストであったパルマー(Aaron Haight Palmer, 1782? – ?)による14ページほどの短い提言書です。当時アメリカがまだ通商関係を有していなかった日本を含むアジア・アフリカ各地の実情に関する調査報告と、アメリカがこれらの諸国と通商関係を結ぶための遠征団派遣を提言する内容で、1846年3月27日付でニューヨークにて刊行されています。
パルマーは、ニューヨークで通商の為の事務所を開いていた法曹人で、政財界とのコネクションを強める中で大陸横断鉄道実現や、太平洋を挟んだ東アジアとの交易拡大を主張するロビイング活動を活発に展開していました。彼は特に日本との通商関係を樹立することがアメリカの大きな国益になることを熱心に主張し、自ら膨大な調査報告書を作成して、政府関係者に提言を繰り返しました。パルマーがこの報告書の宛名としているインガーソール(Charles Jared Ingersoll, 1782 – 1862)は、法曹界出身の民主党下院議員として活躍した人物で、1843年から1847年にかけてアメリカ合衆国下院外交委員会委員長を務めていました。同委員会はアメリカ対外政策の重要方針の決定に大きな影響力を有する委員会で、パルマーはその委員長への書簡という形でこの報告書を執筆、刊行しています。
パルマーは、アメリカ国内の産業や商業の著しい発展と、それに伴う海外市場拡大が各界から求められていることを述べてから、アメリカが通商関係を結ぶ必要があるアジア、アフリカ各地の状況を個別に報告しています。パルマーが特に重視しているのは、イギリスをはじめとしたヨーロッパ諸国がまだそれほど進出していない地域で、その中で最も潜在的な魅力が大きいとされ、政治体制等の社会学的情報が特に詳細に記されているのが日本です。パルマーは長崎のオランダ商館関係者から提供を受けた1839年の日記や報告書、その他信頼できる情報筋から得た日本の情報として、現在の将軍(ZIOGOON TEENPAOU(‘天皇‘)、家慶)および幕府が西洋学問や言語研究を熱心に推奨していることや、近代造船を学ぶための派遣団をオランダに送ろうと計画しているなどと述べ、日本の対外政策制限に軟化の兆しが見られると主張しています。厳しい統制にもかかわらず琉球や小笠原諸島(Bonin Islands)等では事実上の対外貿易が行われている現状や、日米両国の貿易に資する双方の産品を具体的に説明し、人口約5千万の大きな市場として日本の可能性を高く評価しています。パルマーは、長崎のオランダ商館関係者や前駐ワシントン・オランダ大使代理等、その他コネクションを駆使して、長崎奉行や江戸の将軍に対して通商関係樹立を勧める書簡を数度に渡って送付し、先方に受理されたとの知らせを受けたとさえ述べています。このパルマーの提言は、後年さらに強調され、やがてペリー遠征隊派遣にもつながっていきました。
なお、本書は1846年4月(本書刊行直後)の日付とともに彼の署名が表紙にあり、パルマー自身がロビイスト活動のために当時配布した1冊と思われます。就中、この冊子はニューヨーク商工会議所長キング (James Gore King, 1791-1853?)へ贈呈されたと記されています。
(執筆:羽田孝之)
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