ライブラリー図書
日本キリシタン教界略報
解説
世界各地で布教活動するイエズス会士たちは、それぞれの布教地での出来事をまとめた年次レポートを作成し、ローマのイエズス会本部に逐次送っていました。本書『日本キリシタン教界略報』は、そうしたイエズス会年報が5通所収されています。その内実は、1598年度日本年報(フランチェスコ・パシオ著:3~25ページ)、1598年度日本年報(ペドロ・ゴメス著:26~41ページ)、1598年度中国年報(ニコロ・ロンゴバルディ著、42~81ページ)、1598・1599年度ムガール年報(エマニュエル・ピニェイロ、ジェロニモ・ザビエル著:82~109ページ)となっており、そのなかでも日本年報は、同年度の年報が2通に分けて所収されているのが特徴的です。
イエズス会日本準管区長をつとめていたゴメスの日本年報は、九州を中心とした布教地の出来事が満遍なくまとめられています。その一方でゴメスの秘書を務めていたパシオの年報では、豊臣秀吉が死に至るまでの様々なエピソードが紹介された上で、徳川家康などの動向にも着目、当時の日本の政治状況が事細かに記されています。
この『日本キリシタン教界略報』という本は、リエージュでフランス語版(1601年)も出版され、ヨーロッパ各地で「太閤様の死」が知れ渡ることになりました。また「太閤様の死」は、17世紀以降、度々編纂・出版されたイエズス会史書をはじめ、クラッソ著『著名武将列伝』(1683年)などでも取り上げられており、パシオの年報の一部が参照されたと考えられています。
(執筆:小川仁)
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