ミカド・ポルカ

ユージーン・アルノー作曲 <ミカド・ポルカ>(1889年)
出版年 1889
作曲者/作詞者/編曲者 アルノー
出版地 トゥール
編成 ピアノ
フランス
分類 シートミュージック

解説

 本作品は、1885年に作られた大ヒット喜歌劇『ミカド』に由来するピアノ曲です。日本を題材にした『ミカド』は、劇作家のギルバートと作曲家サリヴァンが組んだサヴォイ・オペラ(サヴォイ劇場を中心に興行が展開されたコミック・オペラ)の中で興行的に最も成功した作品です。当時、ロンドンでは日本の風俗文物を見世物とした日本展が人気を博し、イギリスでは空前の日本ブーム真っ只中。『ミカド』はこのブームに乗じ、日本風の登場人物たちが巻き起こすドタバタ喜劇を通じて当時のイギリス政府を風刺しました。その一方で、『ミカド』はジャポニズムまたはオリエンタリズムのイメージ形成の一端を担った作品としてもよく知られています

 『ミカド』の爆発的ヒットに連動し、19世紀末にはイギリスを中心にしばしば『ミカド』の劇中歌を<ミカド・ポルカ><ミカド・ワルツ><ミカド・ランサー><ミカド・クワドリル>といったピアノ独奏用の小品として編曲する動きがみられます。さらに、『ミカド』ブームはイギリス国外にも拡がり、同時代の西洋諸国では「ミカド」を冠した音楽・絵画作品が複数生み出されるほか、このブームは芸術作品にとどまらず、商品名にも影響を与えることになっていくのです。

ミカド石鹸

 その一例が、本作品につながる「ミカド石鹸(SAVON DU MIKADO)」です。日本人とおぼしき着物姿の女性が中央に描かれ、その周りを花や鳥で美しく装飾した全面カラーの化粧箱に詰められたこの石鹸は、フランスのマルセイユに本社を持つ大手フェリックス・エイドゥー社が販売し、富裕層を中心に広く普及しました。そして、喜劇『ミカド』の初公演から4年後の1889年。まだ「ミカド」熱の冷めやまないフランスで、「ミカド石鹸」購入者へのノベルティとして本作品<ミカド・ポルカ(POLKA DU MIKADO)>が配布されたのです。

 本作品の作曲者ユージーン・アルノー(1850-1934年)は、フランスでピアニスト・指揮者・作曲家として活躍した人物です。アルノーはリヨンやパリで劇場指揮者を歴任したこともあり、オペレッタやバレエ音楽など大型作品の作曲ならびに指揮を数多く手がけたことでも知られています。アルノーが48歳の時に、フェリックス・エイドゥー社から依頼されて作曲に取りくんだ本作品は、J.C.ロートレックが表紙に描いたカラーのイラストと同様、陽気さと優美さが混在した華やかなイントロから始まります。喜劇『ミカド』の劇中歌をまとめたわけではなく完全オリジナルの本作品は、スタッカートを基調にした2拍子のポルカが強弱によって変化自在に表情を変えつつ軽やかに全体をまとめるなか、ニ長調に転じる展開部では、軽やかさは残しつつも左手が低音域になるため少し落ち着いた印象を聴き手に与えます。

(解説・演奏:光平有希)

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