アジアの風景

出版年 1826
著者 テイラー
出版地 ハートフォード
言語 英語
アメリカ
分類 旅行記

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解説

本書は、こどもの教育用読み物として書かれたもので、アジア各地を空想の旅でめぐる中で、地理学習ができる仕組みになっています。著者のテイラー(Isaac Taylor, 1759- 1829)は、イギリスの版画家、牧師、そして本書のようなこども向けの本の作家でもありました。テイラーは自身のこどもの教育に携わる中で、こども向けの読み物を書くことを思い立ち、自身で図版も作成し出版するようになりました。本書はシリーズ作品の一つで、最初1819年にイギリス編とヨーロッパ編をロンドンで刊行したところ好評を博し、すぐに本書であるアジア編を刊行しました。他にアフリカ編、アメリカ編などもあって、人気シリーズとして長く刊行が続けられたようです。本書は1826年にアメリカで刊行された版です。
最初にある折り込みのアジア地図は、本書で巡る旅のルートを示しています。小アジアを出発してシベリアから日本、琉球、中国各地を巡り、東南アジア各国とチベット、インド、ペルシャを回ってアラビアを経由して戻るという、旅のルートで、記されている数字は、テキスト中の図版番号を示しています。序文では、こどもたちに幸せであって欲しいのが一番だけれど、ちょっとだけ賢くもあってほしい、という作者からのお願いがあって、本書の性格を表しています。
日本を巡る旅は34ページからで、イギリスと似た島国の帝国として紹介されています。日本は金に富み、学問や芸術が豊かで、着物が特徴的であるという紹介の後に、3枚の図版とその説明があります。22番の車に乗った日本の女性の図版は、当時の日本の人々を描く定番の一つで、モンタヌス(Arnoldus Montanus, 1625-1683)の『東インド会社遣日使節紀行』の図版を範にしていると思われます。続いて、踏み絵を描いた23番の図版があり、これは牧師でもあったテイラーらしさが垣間見えます。最後は、琉球の葬儀の様子を描いた24番の図版で、アマースト(William Pitt Amherst, 1733-1857)を全権大使とする清への派遣航海を記録したマクロード(John McLeod, 1777?-1820)や、ホール(Basil Hall, 1788-1844)の著作が参考になっているようです。
こどもの学習書という一般の人々に広く普及した媒体で描かれる、本書における日本像からは、当時の欧米における一般的な日本像を知ることができます。

(執筆:羽田孝之)

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