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2021年2月10日

【新刊情報】フレデリック・クレインス教授著『ウィリアム・アダムス―家康に愛された男・三浦按針』の紹介

2月8日に筑摩書房からウィリアム・アダムスの伝記が刊行されました。アダムスについての本は数多く刊行されてきましたが、新書の形で出版されたのは初めてのことだと思います。新書にこだわったのには、これだけ魅力のある歴史的人物の波瀾万丈の人生について、できるだけ多くの読者に知ってもらいたいという思いが込められています。
 アダムスについての著作は、主にアダムスの手紙や平戸イギリス商館関連文書をもとに記されています。しかし、日本に来航した時にアダムスの乗っていた船リーフデ号はオランダ船だった上に、イギリス人が日本に到着する1613年まで、アダムスが主に交流していた外国人はオランダ人でした。従って、アダムスの動向を把握する上で、オランダ側史料が非常に重要な拠り所となります。本書では、オランダ側史料の中から、これまであまり知られていないアダムスについての情報を数多く抽出しています。
 アダムスは日本に到着した時点で36歳になっていました。それにもかかわらず、日本に来航する以前のアダムスの動向については、ほかのアダムス関連著作ではあまり扱われていません。日本到着以前にはどんな人生を歩んでいたのでしょうか。本書では、アダムスの日本での行動の背景を理解するために、日本に来航する前の人生について、これまであまり研究されてこなかった史料にかなり深くまで分け入りました。
 リーフデ号での航海について非常に詳細な史料が複数現存しています。これらの史料から浮き上がるイメージは、大冒険です。海賊映画に出てくるような緊迫した事態にアダムスは何度も遭遇しました。これらを丹念に掘り起こしていった結果、日本到着以前のアダムスの人生についての物語は100頁以上もの紙面を占めてしまいました。
 一方、日本での出来事については、アダムスの手紙のほかに、平戸オランダ商館や平戸イギリス商館関連文書を中心にアダムスに纏わる記述が数多く残っています。これらの記述からは、アダムスの人間性が浮き彫りになって立ち現れます。通常のアダムス関連著作では、彼の事績に焦点が当てられ、人間的な側面がなおざりにされています。しかしながら、この人間的な側面こそがアダムスの最も魅力的な部分です。彼は自由な精神をもって、常に真正面に困難に立ち向かった国際人でした。特に晩年には多くの苦悩を味わうようになりましたが、それでもめげずに自分の道を歩み続ける精神の持ち主でした。本書では、アダムスがどのような人だったのかという点に注目して、一次史料に基づいて描写してみました。
 なお、ウィリアム・アダムスが日本に辿り着いた背景には、大航海時代の激動する世界情勢がありました。さらに、アダムスが見た戦国時代末期の日本では、スペイン、ポルトガル、イギリス、オランダ各国の思惑が交錯し、国際衝突にまで発展していました。そのような状況で、家康の外交顧問・三浦按針として渦中にあったアダムスは何を成し遂げたのか。そして、二代将軍・秀忠のもとで禁教政策と鎖国体制が進むなか、どんな晩年を迎えたのか。本書は、ウィリアム・アダムスの波乱に満ちた生涯を通じて、世界史の中の日本史をとらえ直す試みでもあります。

目次
第一章 十六世紀イギリスのアダムス
第二章 リーフデ号の悲惨な旅とアダムス
第三章 イエズス会士とアダムス
第四章 オランダ東インド会社とアダムス
第五章 イギリス東インド会社とアダムス
第六章 江戸の国際摩擦とアダムス
あとがき アダムスに出会う旅路

 

(フレデリック・クレインス)